連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

5000人ゆえ“露骨に分かる”ファンの反応 「観戦体験の価値下げない」巨人戦の使命

小西亮(Full-Count)
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巨人の本拠地・東京ドームにファンが帰ってきた。5000人上限ではあるが、選手の躍動にたくさんの応援が送られる 【写真は共同】

 スタンドの座席に、A2判のオレンジ色の応援ボードが並べられた。それを蛇腹(じゃばら)に折れば、ハリセンに様変わり。大声が出せない代わりに、打ち鳴らす。

 7月28日、東京ドームにファンがようやく帰ってきた。そのボードを裏返せば、白い文字で記されたメッセージが目に入ってくる。巨人戦の担い手たちが伝えたい思いを、原辰徳監督の言葉を借りて届けた。

「応援で取れる1点がある。」
あなたがドームにいてくれる。
それだけで、巨人は強くなる。
おかえりなさい。
今日が、あなたの開幕戦。
さあ、共に戦いましょう。

試合を重ねるごとに、球場の雰囲気が変わる

清水さんは「観戦体験の価値が絶対に下がらないように」と自らに言い聞かせる 【撮影:竹内友尉】

 試合が始まった。マスク姿の観客は、少し落ち着かないようにも見えた。「最初はお客さんも戸惑いがあって、静かな感じではありました」。巨人戦の興行を担う読売新聞東京本社・野球事業部の清水奈緒さんは、客席を見渡して思った。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、制約が多い中での観戦は誰もが初めてだった。

 それでも試合を重ねるごとに、球場の雰囲気が変わってきたのを感じた。パチン、パチン、パチン……。ハリセンがあちらこちらから鳴り始める。「たたいて応援することがお客さんにとって当たり前になってくださったことで、盛り上がりも一段階変わりました」。手段は違っても、選手にエールは届けられる。厚紙でできただけの応援ボードには、作り手の知恵が幾重も詰まっていた。

「来場者にとって、観戦体験の価値が絶対に下がらないように」

 5000人を上限とした有観客試合の開催が決まった時、清水さんは自らに言い聞かせた。得点が入った後のタオル回しができない、好きな選手の名前を叫べない、4万人超の迫力も感じられない……。ないない尽くしを「コロナ禍だから」で済ませてしまっては、ファンを迎える立場として仕事を果たしたとは言えないと思った。

思い浮かんだ「1年前の熱狂」

「やっぱりお客さんは何かアクションをしたいはず」。同僚と話し合う中で思い浮かんだのは、1年前に列島を熱狂させた光景だった。
 2019年のラグビーワールドカップ。視察を兼ね会場を訪れた清水さんは、観客に配られていた扇型の厚紙に目を止めた。それを折ってハリセンに変え、桜のジャージの背中を押すファンの姿。「打ち鳴らして楽しむというのは、ひとつのツールなんだ」という発想が、出発点になった。
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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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