連載:ラ・リーガセミナー「#TodayWePlay」

1部昇格、ウエスカの進化は止まらない 岡崎加入で開いた日本市場の新たな扉

工藤拓

ウエスカは最終節を待たずに自動昇格できる2位以内を確定させ、1年で1部に返り咲いた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 ラ・リーガがスペイン政府の文化機関インスティトゥト・セルバンテス東京と共同で開催するオンラインセミナー「#TodayWePlay」。7月16日の第6回は岡崎慎司が所属するウエスカのマーケティングディレクター、ホアキン・アイネト氏による講演が行われた。

初の1部昇格を境にファンの意識も変化

 ウエスカはここ数年で急成長を遂げてきたクラブだ。創立は1910年。その後、2度の消滅を経て、現在のソシエダ・デポルティーバ・ウエスカが誕生したのは1960年のことだ。以降、ほんの十数年前までは4部と3部を行き来するのが常で、2008-09シーズンまで2部で戦ったことすらなかった。

 それが17-18シーズン、プレーオフの末に1部昇格を果たしたことで、クラブを取り巻く環境は激変した。

 ラ・リーガが分配するテレビ放映権収入により、1部昇格からの2シーズンで年間予算は900万ユーロ(約11億円)から5400万ユーロ(約66億円)に急増。スポンサー収入も50万ユーロ(約6100万円)から300万ユーロ(約3億7000万円)に増えた。クラブの職員も45人から94人に倍増し、地元での活動に限定されていたマーケティング部の仕事も全国規模、そして国際的なプロジェクトを展開するようになったという。

 それでもクラブは、創立以来の理念としている価値観を今も大切にしているとアイネト氏は言う。

「これほど重要な経済的成長を遂げたわけですが、我々は今も確固たる価値観を持った謙虚なクラブであり続けています。クラブが100年以上も守り続けてきた価値観。それは第一に謙虚さ、第二に地域社会との結束、第三に地域全体の発展に寄与すること、そして、たゆまぬ努力です。クラブは地域社会を映し出す鏡であり、地域経済の動力源だと自覚しています。だから、これらの価値観を大切にすべきなのです」

 そんなクラブが初の1部昇格を成し遂げた際には、町中が人であふれかえったという。その模様を記録したビデオを紹介した後、アイネト氏は当時の様子を次のように振り返った。

「地域全体がひとつになった瞬間でした。昇格を決めたのは、ここから何百キロも離れたルーゴのアウェー戦だったのですが、ウエスカに戻ると町中の通りを埋め尽くした人々が迎えてくれました」

 この出来事を境に、ファンの意識は大きく変わったそうだ。それまでウエスカの人々はレアル・マドリーやバルセロナ、アラゴン州の名門サラゴサなどのファンがほとんどで、ウエスカは第二のクラブとしてチェックする程度だった。それが今はほとんどの地元民がウエスカのファンを名乗り、青とえんじ色のユニホームを身につけて地元クラブを応援するようになったのだ。

香川と岡崎のプロモーション映像を作成

アラゴン州のライバルであるウエスカとサラゴサ。ダービー前のプロモーション映像に岡崎慎司(左)と香川真司を起用した 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 世界中でテレビ放映されているラ・リーガの舞台に立ったことで、ウエスカの名は国外にも広まっていった。現在、クラブ公式のペーニャ(ファンクラブ)は21あるが、その中にはペルーやイングランドのファンが作ったものもある。現在クラブは日本にペーニャを作る準備を進めているが、それはもちろん岡崎の加入がきっかけだ。

 アイネト氏はスポーツディレクターから聞いた岡崎獲得の理由、彼の人柄を反映したエピソードなどを語った後、サラゴサに所属する香川真司との関係についても言及している。

「カガワがプレーするレアル・サラゴサと我々はライバル関係にあります。カガワとオカザキが出場するアラゴンダービーはメディアやスポンサーの注目を集め、地域のプロモーションに生かす機会となりました」

 とあるバルで待ち合わせした香川と岡崎が、ワインを飲みながらアラゴンでの生活とダービーについて語り合い、最後は「日曜に会おう」と言って別れる。そんなプロモーション映像を紹介した後、アイネト氏は「ちなみに今季のダービーは2試合とも我々が勝ちました」と付け加えるのを忘れなかった。

 岡崎と香川の加入により、多くの日本人観光客がサラゴサとウエスカを訪れるようになった。その一例としてアイネト氏は「日本人ウエスカファン、KOICHIの旅」という映像を紹介。日本からはるばるウエスカを訪ねてきた彼は、ウエスカの中盤を支えるペドロ・モスケラの大ファンだという。ウエスカのホームゲームを観戦した後、彼はそのモスケラと感動の対面を果たし、プレゼントを交換していた。

「我々の一番の目的はクラブのファンを増やすこと。そして我々が持つ価値観やイメージを生かし、スペインへの進出を望む企業やメーカーの注目を集めることです。タレントある選手の発掘も考えています」

 日本市場における今後の目標についてそう語ると、アイネト氏はこう言って講演を終えた。

「ぜひともウエスカを訪れ、我々の町、我々の地域、我々のクラブと我々の価値観を肌で感じてください。何よりそのときの舞台が1部リーグであることを願っています。なぜなら、明日にも、再び1部に昇格できる可能性があるからです」

 その翌日、ウエスカはホームでヌマンシアを3-0で破り、クラブ史上2度目の1部昇格を決めた。彼らは来季、岡崎と共に初の1部残留を目指して戦うことになる。
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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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