あの瞬間〜両者がその時考えていたこと〜

2019年ルヴァンカップ決勝最後のPK 新井と進藤、それぞれが背負っていた物語

前編

2019年ルヴァンカップ決勝。PK戦までもつれこんだ試合で、札幌6人目のキッカー進藤亮佑と川崎FのGK新井章太はお互い何を思っていたのか 【兼子愼一郎】

 サッカーのワンシーンを切り取り、関わった両者のインタビューからその一瞬を振り返る『あの瞬間』。2019年のJリーグYBCルヴァンカップ決勝、川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌はPK戦までもつれこんだ。川崎のGK新井章太は止めれば勝ち、という場面で札幌6人目のキッカー、DF進藤亮佑との対決を迎えた。

対峙した2人の精神状態はどうだったか

 軽やかな足取りでゴールへと歩を進め、ク・ソンユンから受け取ったボールを、ゆっくりとペナルティーマークにセットする。川崎フロンターレサポーターが陣取る正面を見据え、一度後ろを振り返る。「目に入る全てが僕を嫌っているようで、一度自分たちのサポーターやチームメートを見て落ち着こうと思った」。そして再びゴールに視線を送る。2歩下がったところで一度足を止め、ボールの位置を確認して、今度は7歩下がった。進藤亮佑の表情はやや硬く見えた。

「車屋(紳太郎)選手がPKを外した時、僕らが一番勝利に近づいた瞬間だった。でもすぐ後に石川(直樹)選手が止められてしまって、今度は長谷川(竜也)選手が決めて自分たちは追いつめられ、心理状態は一気に逆転した。いい精神状態ではなかった」

 2019年10月26日、JリーグYBCルヴァンカップ決勝、川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌は、延長戦を戦って3−3。PK戦で決着をつけることとなった。先行の川崎の6人目、長谷川がゴール左上に豪快に決めて5−4。進藤は札幌の6人目のキッカーとして登場した。

 対峙(たいじ)するGK新井章太は、この日6本目のPKで、5人目の石川のキックを止めていたこともあり、幾分落ち着いて見えた。自らを鼓舞するように手をたたき、声を張りあげる。そして両ひざに手をついて、相手の挙動を観察する。止めれば勝ち、決められてもPK戦続行という状況で、キッカーよりもメンタルにゆとりがあった。背後で大声援を送るサポーターの存在も大きかった。「ものすごく力強かった。いつもの試合の何倍もの後押しを感じた」

 それでも進藤は物怖じせずに仕掛けた。助走を始めた背番号3は相手のタイミングを外すため、右に重心をかけ一度止まった。前傾姿勢だった新井は勢い余って前方に両手をついた。狙いどおりの展開に持ちこんだ進藤は、ゴール左側へとシュートを放った。

チームとともに飛躍を遂げた進藤

進藤にとって飛躍の年となった2019年。日本代表にも初招集され、国内有数のDFとしての評価を勝ち取った 【金田慎平】

 進藤は札幌の育成組織から15年にトップチームに昇格して5年目のシーズンだった。前年の18シーズン、札幌はクラブ史上最高のJ1リーグ4位という好成績を収めた。主力として34試合出場4得点の活躍を見せた進藤は、19シーズンに背番号を35から3に変更する。「選手の入れ替えなどいろいろな要素があり、強化部からの勧めもあって、喜んで3番を受け継がせてもらった」

 迎えた19シーズンも飛躍の年となった。的確なカバーリングとセットプレーの強さに加え、非凡なビルドアップ能力と決定力を発揮し、DFながら6得点をマーク。とりわけ話題となったのはJ1第10節ヴィッセル神戸戦でのゴールだ。フリーキックのこぼれ球に合わせたエレガントなオーバーヘッドキックによって、知名度を一気に高めた。さらに11月には日本代表に初招集され、国内有数のDFとしての評価を勝ち取った。

 安定したパフォーマンスを発揮できたことについてこう話す。「シーズンは長いからいい時も悪い時もあるけど、自分は100点の試合があって30点の試合もある、という選手ではなく、悪い時もその状況を受け入れながら常に70、80点以上のプレーを見せられる選手になりたいと思っている。チームメートの助けもあって、18シーズン、19シーズンとある程度のプレーを見せられたのは良かった」

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