150%成長を続ける茨城ロボッツ B1昇格そして日本一へと続く道に挑む

経営に生きるアメリカンフットボールのマインド

株式会社茨城ロボッツ・スポーツエンターテインメントの山谷拓志代表取締役社長 【(C)IRSE】

――その歴史の街・水戸という土地柄についてはどのように感じていますか。

山谷: 東京からは遠く新幹線も通ってないのですが、歴史は深く地元愛もある。いい意味で危機感が高い土地柄だと感じます。

 一方で、かつて、リンク栃木(現・宇都宮ブレックス)の発足以来社長を務めていた栃木県と比較しても、茨城県はスポーツクラブが運営しにくい県ではないかと思う側面もあります。それは、有力なローカルメディアがないことです。地元の民放テレビ局が全国で唯一ないこと。地元紙はあるものの地元の購読者の割合が少ない傾向であること。いわゆる地方とは異なり、茨城県民は東京のど真ん中にいる人と同じ新聞、同じテレビを見ているため、地元の人たちが地元独自の情報を受け取りにくいという環境なんです。地元の情報を取材するメディアや記者の絶対数が少ないわけですから、東京や全国にも情報発信がされづらいということになります。

 昨年われわれは、茨城放送という県域ラジオ放送局の株式を保有することにしましたが、狙いはまさにその情報発信の機能にあります。茨城特有のハンディキャップがあるからこそ、「自分たちでメディアの株式を保有したらどうなるだろうか」という新たな発想につながりました。

 栃木時代を振り返ると、本場・NBAでの挑戦を経て帰国した田臥勇太選手という全国区のコンテンツを有することで地元の人に知っていただけたというところがありました。田臥選手がもう一人いるわけではありませんから、ロボッツが注目されるためには「何か新しい取り組みをしなければならない」という危機意識があり、こうしたメディアを巻き込んでいく発想につながったと思います。

――山谷さんの「あえて挑戦する」というマインドは、ご自身がやっていらっしゃったアメリカンフットボールのオフェンスラインにも通じるものがあるような気がします。

山谷: そう言っていただくと、オフェンスラインというポジションを経験してきた甲斐(かい)があった、とうれしく思います(笑)。アメフトにおけるオフェンスラインは、攻撃時にボールを投げたり持って走る選手をディフェンスから守る役割で、「ボールを持って走ったりパスを受け取ったりしてはいけない」ポジション。自分で得点ができない分、チームの「目的」に対して自分がどういう「手段」となれるかを突き詰めるわけですよね。

 仕事を進める中で、「いい意味で、ちょっと背伸びした目標をあえて宣言する」ことも意識しています。例えば「日本一になります!」と宣言して期待値を先行させて、結果を出さなくてはいけないプレッシャーと向き合いながら、応援してくださる方と一緒になって形にしていく。物事を成し遂げること自体が大切だという精神は、新卒でリクルートに入社して営業を担当した時代から一貫しているかもしれません。

 私自身、これまで自分で身の振り方を意思決定してきたことがほとんどなく、周囲から求められた仕事を引き受けてきた感覚が強いんです。そして、役割を全うすることが面白いと感じるのは、まさにオフェンスラインならではの考え方かもしれませんね。成果から逆算して考えて今すべきことに取り組むというアメフト思考のクセが身に付いているんだと思います。

スポーツを再び楽しめる日を信じて

「RUN as ONE〜一丸疾走〜」を合言葉に臨んでいた2019-20シーズンは、新型コロナウイルスの影響で3月に全日程を中断し、終了となった 【(C)B.LEAGUE】

――リニューアルされたアリーナの手応えは。

山谷: まず、水戸市の中心市街地にあるという立地が素晴らしいですね。ただし、いわゆる従来の「体育館」的な施設なので、ファンの皆さんにゲームを観戦していただくための「アリーナ」としては改善すべき点があるのも事実です。そこで私たちはこの体育館を「リノベーション」していくことを提案しています。まだできたばかりの新しい体育館をリノベ―ションするなど普通では考えられないと思うのですが、あえて提唱していくつもりでいます。実際、来年には日本最大級のセンターハングビジョンとリボンビジョンの導入が予定されています。

 財源も、国の助成金と、市による企業版ふるさと納税のような仕組みを活用する予定なのですが、水戸市が全面的に理解を示してくれているのもありがたいこと。こうしたスキームは、地方のアリーナ事情で困っているところにとっても参考になる前例にできればと思っています。

――その他、成長路線を歩んできた中で、課題と感じている点は。

山谷: 新しい取り組みなど外向きの話はもちろん良いのですが、それを固めていくための組織づくり、社員のモチベーション、育成が課題だと感じています。事業を多角的に進めれば、社員一人一人の役割が曖昧になり、負担が大きくなります。組織の拡大に伴う人事評価や管理会計面の整備など、ディフェンス的な組織強化が課題だと思っています。毎年150%の成長をしているから当然の課題ではあるんですが。

――加えて、新型コロナウイルスによる感染拡大問題はスポーツビジネスにおいても大きな課題ですよね。“密”を生み出すことがビジネスモデルの肝という側面もあると思うのですが、どのようにお感じですか?

山谷: 栃木時代にはリーマンショックや東日本大震災がありましたし、茨城でもどん底からのスタートを経験してきたわけですけれど、その時以上に精神的につらさを感じています。震災は、その時点ではいったん落ち込みますが、シーズンは当然開幕しますし、景気が悪くなってもいずれ戻ることが想像できます。経営再建においても営業などやるべきことをしっかりやっていれば、結果が出ることが期待できたわけです。でも今は、すべてが遮断されている感じなんですよね。試合もできない、人と会えない、どこにも行けない。そしてもっと不安なのは先が見えないことですよね。まずは、目先の資金繰りをどうするかが課題ですよね。拡大路線でやってきたことを縮小し、投資を絞るなど、スケールダウンも覚悟して出直すことも考えています。

 デジタルコンテンツの充実に伴い、SNSでいろいろな発信ができる面には期待がかかります。一方で情報発信チャネルが増えた分、チームの選手や社員たちへの負担が大きくなっていることは間違いない。これも、先ほど申し上げた組織の課題として、効率的に実現するための体制づくりと、お互いの理解を深めるコミュニケーションも課題になると思います。

 とはいえ、いくらデジタルコンテンツが充実しても、やはりスポーツはリアルでのゲーム観戦が実現できなければ価値がない。スタジアムやアリーナと一体になってこその非日常コンテンツだとすると、ほかのエンタメと違ってデジタル対応にも限界があると思うんです。みんなで一体となって楽しめる空間がなければ、本質的な価値の復活はないですからね。そんな日が戻ってくることを願っています。一時的には成長は踊り場の局面を迎えますが、ピンチはチャンスの精神でしっかり乗り越え、B1昇格そして日本一に挑んでいきたいと思っています。

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著者プロフィール

「日本スポーツビジネス大賞」は、スポーツビジネスにおける素晴らしい取り組みを行い、年間を通して著しい成果を挙げたクラブ・企業・団体等を表彰する企画。こうした事例にスポットライトを当てることで、分野横断的に学び合い、日本のスポーツ界のさらなる発展に貢献することを目的とする。2017年、川淵三郎氏を発起人代表として発足、実行委員会が事務運営を行う。第3回となる2019年度表彰は、過去2回同様、株式会社楽天野球団元社長で株式会社USEN-NEXT HOLDINGS取締役副社長COOの島田亨氏を審査委員長に迎え、スポーツナビの創業者であり現在はヤフー株式会社常務執行役員コーポレートグループ長、一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事の本間浩輔氏、株式会社スポーツマーケティングラボラトリー代表取締役、株式会社スポカレ代表取締役、一般社団法人スポーツビジネスアカデミー代表理事の荒木重雄氏、欧州サッカー協会マーケティング代理店「TEAMマーケティング」Head of APAC Sales、Jリーグアドバイザーの岡部恭英氏、と各方面でスポーツビジネス業界をリードする識者が審査委員会を構成し、審査を行った。

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