C大阪・Zoomトレーニングの全容【後編】 不測の事態を創意工夫で乗り越える

下村正幸
 Jリーグが中断して約3カ月。その間、セレッソ大阪はどこよりも早くオンライントレーニングを導入し、リーグ再開に備えてきた。メニューを考え、トレーニングを主導するのはフィジカルコーチのトニ・ヒル・プエルト氏。後編では、高負荷のHIITトレーニングに取り組む選手たちの様子をお届けするとともに、このスペイン人コーチにZoomを用いたトレーニングの目的と効果を聞いた。

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バリエーションをつけることを重視

 今回、動画で紹介するのはHIITトレーニングだ。3つある工程のうちのメイントレーニングで、HIITは「High Intensity Interval Training」の略。全力の運動と少しの休憩を限界まで繰り返すトレーニング法だ。サッカーという競技の特性を踏まえて、バリエーションと連動性を重視するトニ・ヒル・プエルト氏(フィジカルコーチ)の考えがダイレクトにメニューに反映されている。

 動画を見ていただければ分かるが、上半身と下半身がそれぞれ別の動きをしているエクササイズが多い。片足を広げる際に、水の入っているペットボトルを両手に持って腕を上げることで体幹全体と軸足の内転筋に負荷がかかり、さらにバランス能力の向上と筋腱の動きの促進にもつながる。加えて多機能なエクササイズを連続して行うことで、スプリント、ブレーキ、ターン、ジャンプ、コンタクト、キック、ヘディング、ドリブル、マーク外しといった動きやアクションを連続的にしかも瞬間的に局面に応じて反応しながら、おまけにそのほとんどを片足で行わなければならない、試合本番を想定した仕様となっている。

 また時間も統一するのではなく、エクササイズごとに設定。さらに2セット目にはその配分を随時変更と、とにかくバリエーションをつけることに重きを置いている。トレーニング中の選手たちの表情やしぐさが、練習のハードさを物語っている。

 そうして負荷をかけた体をリラックスさせる役割を担うのが、最後の工程であるクールダウン。人間は深呼吸を続けることで全身がリラックスできるという考え方に沿って、筋肉の緊張状態を緩和し、血液の循環を促進させるのが最大の狙いだ。

チームワークの熟成にもつながっている

自宅でのトレーニングだけにスペースは限られているが、ボールを使ったエクササイズもある 【画像提供:セレッソ大阪】

 トニ氏は自らのフィジカルコーチという仕事についてこう私見を述べている。

「怪我人が減ったり、試合中のスプリントの回数が目に見えて増えた選手がいると、フィジカルコーチの功績に結びつけることが少なくないけど、われわれの仕事はそんな単純なものではない。試合当日に監督が24人のメンバー全員をベストに近いコンディションで起用できること。最終的な目標はそこにある。だから仕事の内容も多岐にわたってくる」

 つまりこれをZoomトレーニングに置き換えると、チームの活動が再開した時点で練習に、そして試合に選手たちがスムーズに臨めるよう、コンディションを可能な限り維持することが目的なのだ。

 もちろんフィジカルだけではない。日々の食事や睡眠、さらにはメンタルなど選手個々によって状況は異なる。各自の意識の持ちようが極めて重要になるだけに、トニ氏はZoomトレーニングの初日に、「あらゆるものを奪われた人間に残されたたった一つのもの、それは与えられた運命に対して自らの態度を選ぶ自由であり、自らが歩むべき道を決める自由である」というオーストリアの精神科医・心理学者のヴィクトール・フランクルのメッセージを選手たちに伝えたという。

 選手たちにはZoomレッスンとは別に、週3回、有酸素のパワーとハイスピードへの耐久性の維持のためにレジスタンストレーニングを課している。外でのランニング、エアロバイク、ルームランナーの3つのオプションの中からの選択は各自に任されるが、トニ氏がマニュアルの概要も作成。加えて、足首やハムストリングなどの故障歴がある選手に対しては個別にメニューを準備している。今までより仕事のボリュームは明らかに増やしたという。

 選手たちに対しては、「とても真面目に取り組んでくれている」とその前向きな姿勢に目を細める。「同じ時間に一緒にトレーニングすることで困難を共有しているという意識が生まれ、それがチームワークの醸成にもつながっている。こうしたチームスピリットはリーグ戦が再開した時にも必ずプラスに作用するはずだ」

 行動派のスペイン人フィジカルコーチに引っ張られて、チームの活動休止という不測の事態を創意工夫で乗り越え、日々のトレーニングに励むセレッソ。その取り組みには、同じくさまざまな困難に直面するわれわれにも役立つヒントがちりばめられている。

(構成:YOJI-GEN)
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