C大阪・Zoomトレーニングの全容【前編】 フィジコも笑顔「ケガ人が出ていない」
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「ケガ人が1人も出ていない」
今シーズンからセレッソ大阪のフィジカルコーチを務めるトニ・ヒル・プエルト氏は、こう切り出して笑顔を浮かべた。
新型コロナウイルスの感染拡大により、チーム活動の休止を余儀なくされているJリーグの各クラブの中で、4月上旬にいち早くZoomを用いたトレーニングを導入したのがセレッソだった。今でこそ他のスポーツでも多くのチームが取り入れているが、日本のスポーツ界においてはセレッソが先駆者的存在だ。
このトレーニングを発案したのが他でもないトニ氏だった。日頃からアンテナを広く張り巡らせており、そうした準備力が役立ったのだ。
「スペインをはじめヨーロッパ中にチームの現場で働いている知人がいて、彼らとは密に連絡を取り合っている。フィジカルコーチのオンラインミーティングに何度か招待され、その際に使われていたコミュニケーションツールがZoomだった。音声、映像、接続のクオリティーの良さは実感していた」
もっとも、これはほんのきっかけであり、そこから実現に至ったのはトニ氏の先見力であり、行動力だった。
「ヨーロッパでは爆発的にウイルスの感染が広がり、その影響はサッカーにも直撃した。そんななか、コーチ仲間からヨーロッパではさまざまなクラブでZoomを使ったトレーニングを実施していることを聞いたんだ。日本でも徐々に感染が広がっていたから、あらゆる事態を想定していた。だから、突然クラブからチームの活動を休止すると聞かされた時、ロティーナ監督にZoomと各選手に映像を送って自主的にトレーニングをしてもらう2つのアイデアを提案した。彼からは『好きな方法でやりなさい』と一任されて、クラブにも相談したら、緊急事態にスピーディーに解決策を提示してくれたととても喜んでいたよ」
筋トレとは一線を画す
Zoomトレーニングを主導するトニ氏は、母国スペインを皮切りに欧州各国のクラブで研鑽を積み、昨季はG大阪のコーチを務めた。C大阪のロティーナ監督とは東京Vでも一緒に働いた間柄だ 【画像提供:セレッソ大阪】
トレーニング中は自らも実践しながら、アンダーカテゴリーも含めた40人程度の選手の動きに目を光らせてチェック。さらにレコーディングした映像を各自に送付し、動きが気になった選手に対しては、個別にフィードバックも行う。また選手から体調や疲労度、要望なども随時ヒアリングし、翌日以降のトレーニングに反映していく。
トレーニングは、(1)アクティベーション、(2)HIITトレーニング、(3)クールダウンと3つの工程に分かれている。メインとなるのは2番目のHIITトレーニング(HIITは「High Intensity Interval Training」の略)だ。時間は順番に15〜25分、25〜35分、10〜15分と大まかな基準はあるが、その配分、強度もその日実施するHIITトレーニングの内容に応じて変動する。
今回、動画で紹介しているのはアクティベーション。このトレーニングの目的はその名の通り「体の活性化」だ。メインのHIITトレーニングに向けての準備運動に相当する。もっとも、内容はかなりハードだ。
突然、活動休止が決まった経緯、さらには全員が自宅にトレーニング用具を備えているわけではないため、サッカーボールやペットボトル、椅子などを用いながら、さまざまなエクササイズを連続的に行っていく。これは絶えず動きがあり、またひとつのアクションにおいて体のさまざまな部位を同時に使うというサッカー競技の特性をもとに考案されている。その意味では部位ごとに集中して鍛える筋トレとは一線を画しており、トニ氏は、「私が指導しているのはアスリートではなく、サッカー選手だ」と強調する。
トニ氏はZoomトレーニングの成果については満足しているという。だが同時に、「本当に大事なのはリーグ戦が再開して過密日程を強いられる可能性が高いなかで、いかに怪我人を出さないか」と、あくまで目的の主眼を見失わず先を見据えている。
(構成:YOJI-GEN)
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