東海大野球部はなぜ“レジェンド”招聘? コロナ禍に考える「いいコーチ」の条件
安藤が指導者・西郷に期待すること
都市対抗野球大会で。史上最多となる通算14本塁打を放った西郷。バッティング技術はもとより、西郷を通じて“信頼関係”も学んでほしいという 【写真は共同】
同じアマチュア野球と言っても、社会人と大学には多くの違いがある。大人の社会人を率いて数々の勝利をもたらせた安藤だが、大人への成長段階にある大学生を指導してそう感じさせられている。
「大学に来て一番『えっ?』と思ったのが、バットの金属と木の違いでした」
金属バットを使用する高校野球ではウエートトレーニングやサプリメントなどで体を大きくすれば、たとえ上半身の力に頼りすぎたスイングでも、ボールに当てれば遠くに飛ばすことができる。だが、芯のスポットが限られる木製バットでは、そういうわけにはいかない。
「木製ではしっかり振って、押し込んでいかないとボールは飛ばないわけです。でも学生たちは、ものすごく“打たされている”イメージが強かった。当てにいっちゃうし、(体が)開きまくっちゃう。上半身で野球をやっているところがものすごく気になりました」
下半身から生み出した力を上半身に伝えて“打つ”のではなく、体の下と上をうまく連動させられず、上半身の力だけで“打たされる”。安藤が強く感じたのは高校時代に使ってきた金属バットの弊害と、ウエートを過信する余りの力まかせのスイングだった。
そこで身体の上と下を連動させて打てるような練習法に変えると同時に、「1球の大切さ」を解いた。
その裏には、社会人と学生野球の環境の違いもある。社会人では選手全員にバットが支給されるのに対し、大学でそうした待遇を受けられるのはレギュラーや甲子園経験者などごく一部だ。1本2万円ほどのバットを、基本的に自分で買わなければならない。野球部員は時間的にアルバイトをすることは難しく、なかなかの負担になる。
「大変ですよね。しかも大学入学前、春にいきなりキャンプがある。各親が費用を払ってくれるわけじゃないですか。僕は父親の気持ちになりましたよ。一人一人、しっかり責任を持ってやらなければと思い知らされました」
部費をやり繰りし、できる限りバット代を支給するようにした。木製だから、たった1回のスイングで折れる場合もある。それでも安藤は、「強く振れ」と繰り返した。
「逆にしっかり振らずに当てにいったバッティングなら、バットをやらねえぞというくらいの気持ちでやらせました」
負ければ終わりの要素が色濃いアマチュア野球では、“1球”が明暗を分ける。だからこそ、普段から“1球”を大切にしなければならない。それにはメンタル面はもちろん、確かな技術も求められる。それこそ西郷に期待した部分だった。
「社会人野球は1球で勝負が決まるなか、配球も含め、その場での対応をどうするかという力が西郷にはある。バッティング理論に対する引き出しを持っています」
活動休止前に見られた「西郷効果」
「タイミングの取り方をピッチャーに合わせなければいけないのに、合わせられないのは問題です。そういう最低限のことはやらないといけない。その中で、タイミングの取り方の自由さはあっていい。例えば、そんな感じです」
高校生から大学生にかけては身体ができてくる時期で、ウエートトレーニングに関して二人は同じ考えを持っている。まず、ケガをしない肉体をつくり上げていくことが大切だ。そうして身につけた筋力を、筋出力としていかに発揮できるか。それには柔軟性や身体操作性も求められる。
西郷が続ける。
「自分も監督と同じ考え方で、動きの中でしっかり使える筋肉をつけるのがいいと思います。思ったところにバットを出せるとか、足を動かせるとか。そうできるようになるには、毎日少しずつの積み重ねが大事。それは単純に体を大きくすることではなくて、大きくなってケガしない体をつくっていくなかで、しっかり動かせるようにしていくということです」
今春の首都大学リーグは開幕延期になり、現在チームは活動休止中だが、3月に3週間行われた春季キャンプでは学生が西郷に教えを請いにいく姿が多く見られたという。選手は自身の欲求から話を聞きにいき、指導者は横から選手を引き上げていく。そうした関係性を築くことこそ、「いいコーチ」の条件だと安藤は考えている。
「年齢が下の人からどれだけ頼ってこられるかが、先輩の本当の価値だと思う。それが信頼関係につながり、いろいろなことに派生していく。アマチュアの野球って、信頼関係しかないと思うんですよね。西郷という男は人間的にも間違いない。そういうところもあって来てもらったので、今以上に磨いてもらえたらと思います」
(敬称略)
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