連載:Jリーグ・クラシック

岩政大樹が語る“アントラーズ黄金時代” 「07年にリーグ優勝していなければ……」

飯尾篤史

2007年に鹿島アントラーズが果たした大逆転優勝は、今でも語り草となっている 【写真:アフロスポーツ】

 温故知新――故(ふる)きを温(たず)ね、新しきを知る。

 新型コロナウイルスの影響でJリーグが中断して2カ月が経った。Jリーグのない日々が続き、明るい未来はいまだ見えてこない。それでも……Jリーグには27年の歴史がある。こんな状況だからこそ、レジェンドたちの声に耳を傾けたい。新しい発見がきっとあるはずだ。

 第5回に登場するのは、元鹿島アントラーズの岩政大樹さんだ。常勝軍団との印象の強い鹿島だが、2003年〜06年の4年間はタイトルを1つも獲れなかった。だが、オズワルド・オリヴェイラを新監督に迎えた07年、リーグ9連勝を成し遂げ逆転優勝を果たす。07年の鹿島にいったい何が起きていたのか。DAZNで放送中の最終節・鹿島対清水エスパルス戦の解説を務める岩政さんが、振り返る。

過渡期にやってきたオリヴェイラ新監督

――2007年シーズン、鹿島アントラーズはオズワルド・オリヴェイラを新監督として迎えました。03年から4年間タイトルを獲れず、6シーズン指揮を執ったトニーニョ・セレーゾ監督が05年限りで退任。後任のパウロ・アウトゥオリ監督のもとでも無冠に終わり、チームは過渡期でしたね。

 セレーゾが6年やっていましたから、どうしてもマンネリ化する部分がありました。自分が抜てきしたゴールデンエイジの選手たち(=1979年生まれの選手たち)や自分がブラジルから連れてきたフェルナンドなどがいましたしね。いろいろと難しくなっていたのだと思います。

 一方、パウロは指導者としてポルトガルで経験を積んだ方なので、ブラジル人監督には珍しく、非常に戦術的だった。つまり、チームとしてやるべきことが明確でした。加えて、チームに対する献身性や競争の部分で非常に厳しくて、1、2試合の不出来も許さないぞという感じで、突き放すようにメンバーから外したり。それによってかなり締まったんですけど、委縮する選手もいたんです。

 そんな時期にオズワルドが来た。オズワルドもバサッと行くときは行くんですけど、主力として期待している選手に対しては対話をしながら、我慢してくれる。その辺りのバランスを取れる監督だったので、セレーゾとパウロの中間というか、あの頃のチームにとってちょうど良い監督でしたね。

――07年シーズンを迎えるにあたって、岩政さんは「今年は数字を残そうと思っている」と公言しています。

 日本人にありがちなんですけど、僕も理屈っぽいタイプなので、過程をすごく大事にしたがるんですよね。サッカーは毎試合必ず勝てるわけではないから、まずは過程においてやるべきことをやらないといけない。

 ただ、僕が鹿島に入って3年間、一度もタイトルを獲れていないのも事実。それでその頃、ただ結果から逃げているだけなんじゃないかという感覚があって。結果を出さなきゃ意味がないという捉え方をしないと、たどり着けない世界があるような気がしたんです。

 それで、「結果で示します」と宣言して、自分を追い詰めていこうと。いいプレーをしても結果が出なければダメだというところに目を向けられれば、悔しさが原動力になって、次の課程に取り組めるサイクルを作れるんじゃないかと思って挑んだ。そういう意味で07年は、結果として自分の殻を破れたシーズンになったと思います。ただ、シーズン序盤のナビスコカップで、オズワルドの信頼を一度失っているんですよ。

――何があったんですか?

 アルビレックス新潟戦の残り10分、負けていたのでセットプレーの流れでそのまま前線に残り、パワープレーを狙ったら、5分後に交代させられてしまった。セットプレーの可能性を考えても、僕を残しておいたほうが得策だと思ったので、通訳を介して交代の理由を確認しようと思いました。

 ところが、通訳とうまくコミュニケーションが取れず、結果としてオズワルドと握手しないままベンチに戻ることになり、オズワルドが激昂(げきこう)した。僕としては交代に対して不満を表したわけではないので、誤解なんですけどね。

 これはもう、ピッチの上で信頼回復に務めるしかないなと。こうした覚悟が奏功したのか、5月から6月に掛けて4試合連続ゴールを決めるんです。ブラジル人監督は勝利につながるゴールを奪った選手をすごく評価する。もちろん、守備面でも貢献していたので、僕は失った信頼を取り戻すことができました。

――その4ゴールとも、野沢拓也さんのアシストによるものでした。この頃の野沢さんについては、どんな印象を持っていますか?

 その前年、06年の夏に(小笠原)満男さんがヨーロッパに旅立った週の頭だったと思うんですけど、パウロが「代わりに野沢を使う」とみんなの前で宣言したんです。パウロは厳しい監督でしたから、こんなことを言うのは珍しい。これは野沢自身にとっても衝撃的だったんじゃないかな。それまでは満男さんや本山(雅志)さんといった少し上の人たちがいたから、どうしても甘えがあった。ところが、満男さんがいなくなり、自分が後継に指名されて責任や自覚が増したんだと思います。そこからプレーが一気に変わりましたからね。

悔しさをきっかけに、書き始めた日記

この年に就任したオリヴェイラ監督(写真中央)。J1リーグ3連覇の偉業を成し遂げるなど、黄金時代を築き上げた 【写真:アフロスポーツ】

――一方、07年の夏には小笠原さんがイタリアから戻ってきます。小笠原さん自身は「イタリアに行って、どこが成長したの?」「イタリアで試合に出られず、衰えて戻ってきたんじゃないの?」という視線を感じ、プレッシャーを感じていたそうです。

 僕たち選手は、たった1年でそんなに力が落ちるとは思っていません。あのときの満男さんはまだ20代後半、衰える年齢でもなかったですから。だから、能力に対して疑いの目はなかったですけど、「出来上がりつつあるチームに対してフィットできるのかな」という思いはありました。

 一方で、満男さんの覚悟や危機感は、練習の中で確かに感じましたね。特にボールを刈りに行くところは、大きく変わっていた。実際、それまでは2列目の選手でしたけど、帰ってきてからはボランチになりましたし。

――小笠原さんが復帰した夏以降、鹿島はなんとか上位に食らいつき、25節では名古屋グランパスに0-3で敗れましたが、次の試合から連勝が始まります。

 名古屋戦のあとから(田代)有三がスタメンになるんですけど、彼には高さという明確な武器がある。満男さんが戻ってくる前までは、まず守備から入ってソリッドに戦いながら勝機を見出していたんですけど、満男さんの復帰後は、後ろからつないで地上戦で崩せるようになった。そこに有三が加わって、今度は上からも攻められるようになって攻撃に幅が生まれた。有三が競ったこぼれ球をマルキ(マルキーニョス)や本山さん、野沢が拾って2次攻撃、3次攻撃につなげられるようになったから、これは確かに強いですね。

――リーグでは勝利を積み重ねていきますが、その間、ナビスコカップの準決勝でガンバ大阪にアウェーゴールルールによって敗れました。しかも、岩政さんがシジクレイのマークを外してしまい、ゴールを奪われたのが敗因でした。

 その夜は悔しくて、泣きましたよ。すっかり忘れていたんですけど、その日から日記をつけていたんです。さらっと読み返してみたら、この試合のあと、トレーニングの仕方を大きく変えているんですよね。当時、南原清隆さんの『ナンだ!?』(テレビ朝日系列で放送されていたスポーツ・バラエティ番組)という番組があって。交流のあった中西哲生さんも番組に出演されていたから、他の競技のスペシャリストに連絡してもらって、一緒に練習させてもらえないかと。新しいことにチャレンジして、自分の幅を広げようとしていたんです。結局、その後長く付き合うことになるトレーナーを紹介してもらいました。

 あと、ガンバ戦から次のジュビロ磐田戦までの1週間は、練習で自分の感覚があまり良くなかった。でも、ジュビロ戦でゴールを決めることができて、そこを境に吹っ切れたんです。タイトルを獲るまでは満足しちゃダメだと、次のフェーズに入る感覚もあって。あの1週間というのは、僕にとって大きな転機となる1週間だったな、と日記を見返しながら思い出しましたね。

――この悔しさを忘れちゃいけないという思いが、日記をつける行為につながった?

 その少し前くらいに、南原さんや哲生さんから「書くことをしたほうがいいよ」と言われたんですけど、やってなかったんです。というのも、プロ1年目の秋からレギュラーになり、2年目はシーズンを通して試合に出て、3年目はパウロから信頼されて、フィールドプレーヤーの中では一番長い出場時間だった。順調にステップを踏んでいる感覚があって、この流れでタイトルが獲れれば、と自分の中で少し楽観的に考えるところがあったんでしょうね。だから、日記を書くという新しいことに踏み出さなかった。ところが、ナビスコカップで敗退して、このままではいけないと。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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