柳田将洋に聞く帰国の経緯とドイツの状況  「今は先が見えていないというのが本音」

田中夕子

「乗り越えた先でやっとオリンピックが見えてくる」

延期が発表された東京五輪について、柳田は「今は来年に向けて頑張ろう、というよりも、とにかくこの状況を抜けることを第一に考えなければいけない」とコメント 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――とはいえ、アスリートとしては目指す目標があり、1年後に向かっていかなければいけない。なかなか先のことが見えない中で、柳田選手はどのような思いを抱えていますか?

 正直に言うと、今は先が見えていないというのが本音です。1年後にオリンピックと言われても、今の状況で正直展望はありませんし、近いところで言えば、来シーズン自分がどこにいるか、それすら決まっていない。展望の「て」の字も見えていない状況ですし、何とかして「て」の字からつくっていこう、という状況でもない。そもそも体すらできていないですから。

 弱気でも、投げやりでもなく、今は「来年のオリンピックに向けて頑張ろう」というよりも、とにかくこの状況を抜けることを第一に考えなければいけないし、この苦しい状況を越えられないとオリンピックは一生来ないと思うので、いかにここで頑張るか。アスリートとして競技を頑張るよりもまず、もっと必死に頑張らないといけない状況だと思うし、団結しないといけない。

 オリンピックは見に来てくださった方や、テレビで見る方々とみんなで盛り上がるからこそ、そこに感動が生まれる。ただ与えるだけでは一方通行だし、感動を受け取れない状況でやるべきものではない。だから僕の中では今乗り越えるべきことのほうが重要だし、乗り越えた先でやっと、オリンピック、この先が見えてくると思っています。

――その中で今アスリートとしてできること、プロバレーボール選手としてできることは何だと思いますか?

 他競技の選手もそれぞれが持っている影響力をフルに活用してTwitterやインスタグラムなど、SNSでいろいろな情報を発信している。その姿勢は、まさにアスリートとしてできることだと思いますし、僕も見習いたいと思っています。単純に、今僕がポジティブなことを言って、その言葉で誰かが元気になるのであればそれも仕事だと思いますし、むしろそれしかできないのかもしれない。

 今はバレーボール選手の本業であるバレーボールをすることができないので、「一緒に頑張ろう」と手を差し伸べ、見えないところでも誰かが元気になってくれたらいいな、と想像して、先頭に立つつもりで頑張っていくしかないと思っています。ネガティブなことばかり嘆くのではなく、ポジティブなことをどんどん発信して、ただ笑えればそれでいいし、「明日これをやってみようかな」という方法やきっかけを与えることが、今できる最高の活性化であり、それが僕の力でできるなら、今できることとしてはベストではないか、と思っています。

――日本でもVリーグ男子の決勝が無観客になったり、チャレンジマッチ、天皇杯、黒鷲旗が中止と、幅広いカテゴリーで試合ができなくなり、苦しい思いをしているアスリートがたくさんいます。その反面、試合ができること、見てくれる人がいることは当たり前じゃない、と気づくきっかけにもなりました。次、またこれまでのように「当たり前」を味わえる日が来たら、どんなことができると思いますか?

 おっしゃる通り、競技ができることの幸せ、ファンがいてくれることの幸せ、自分という人間に興味を持っていただけることがどれだけ一人のアスリートとして幸せで、幸福なことなのか、改めて気づかされました。たとえば、今はみなさんの前でプレーすることができないので、その分、インスタグラムでライブをしたのですが、その時もたくさんの方が見てくれました。

 国際大会になれば大勢の、何千人、何万人という方が会場へ足を運んでくださって、それもありがたいことですが、バレーボールができない今もインスタライブで何千人もの方が見てくれる、というのはものすごくありがたいことだなと。もちろんどんな状況であれ、プロバレーボール選手なのにバレーボールができない、ということに対して少なからず残念な気持ちでいます。

 ですが、その中でライブを見てくれた方々がいたり、ホームページに「一緒に頑張りましょう」とメッセージを寄せていただいているのを見ると、自分が励ますのではなく、励まされているし、本当にありがたいと感じます。今は苦しい状況ではありますが、ここを超えることができたら、今まで以上に楽しんでいただけるようなこと、もちろん第一はバレーボールをする姿を、みなさんに見ていただきたいです。

<後編(4月22日掲載)に続く>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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