連載:未来に輝け! ニッポンのアスリートたち
体操・杉原愛子は「浪速の元気娘」 日本のムードメーカーが目指す東京五輪
笑顔が杉原愛子のトレードマークだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
高校2年生ながらリオ五輪に出場
しかし、実はリオデジャネイロ五輪で日本の体操女子は団体4位になっている。3位の中国とのチーム得点の差はわずか1.632点。限りなくメダルに近い4位だったのだ。
リオ五輪のときの日本女子メンバーは、寺本明日香、村上茉愛、宮川紗江、内山由綺、そして、当時はまだ高校生ながら、15年にNHK杯を制し勢いにのっていた杉原愛子だった。このチームは歴代の日本女子チームの中でも突出して「明るく元気なチーム」だった。
なにしろ五輪本番でも、まるで自分たちがいつも練習している体育館かと思うほど元気いっぱいに声をかける。体操独特の「おして〜」「もって〜」など。演技中の選手への精一杯の声援をチーム一丸となってかける。技がうまく決まれば「オッケー!」と拍手とともに歓声が飛ぶ。どんなに緊張してもおかしくない五輪という舞台で、彼女たちは楽しそうにのびのびと躍動し、実力を出し切った。その結果が、団体総合4位だった。すべてがうまくいけば、「メダル獲得も?」という期待はしていた成績だったが、正直ここまで本番でうまくいくと思っていた人は少なかったのではないか。
それくらい「リオ五輪での体操女子チーム」はのりにのっていた。寺本、村上の両エースの踏ん張りも素晴らしかったが、演技をきっちりまとめ、点数を稼ぐ以上の働きをしていたのが杉原だった。とにかく杉原は声を出すし、声が通る。そしていつも笑顔だった。彼女がこのときの日本チームのムードメーカーだった。
誰かが緊張に飲み込まれそうになっていても、杉原が「大丈夫! いける!」と声をかけると思わずみんな笑顔になる。杉原愛子はそんな力をもった選手だ。
ジュニア時代から際立っていた技のキレと表現力
2015年のNHK杯で優勝。技のキレと表現力はジュニア時代から際立っていた 【写真:アフロスポーツ】
技術が高いだけでなく、ゆかや平均台で発揮される表現力は、超ジュニア級だった。どんな選手に成長するのだろう、という周囲の期待を裏切ることなく、杉原は日本のトップ争いに絡む選手になった。そして、2年後の15年にはNHK杯で優勝。寺本と村上がしのぎを削っていた日本女子のトップ争いに食い込んできた。
この年のNHK杯では3位となり、リオ五輪出場を決め、囲み取材で「東京の生活はどうか?」と尋ねられると、「とてもいい環境で練習させてもらっている」と答えた。杉原のインタビューには時折関西弁が交じり、記者たちの笑いを誘うことも多かった。記者会見でも杉原の言葉で雰囲気がふわっと柔らかくなることもたびたびあった。そんな選手なのだ。
朝日生命の塚原直也監督も、「これだけレベルの高い選手で、練習中こんなによく声を出す選手は見たことがない。練習の姿勢が素晴らしい」と手放しで褒めていた。浪速っ子・杉原の東京進出は成功しているように見えた。
しかし18年、朝日生命はパワハラ問題で揺れた。杉原はその件に関してなにも発言はしなかったが、騒動の渦中で行われた全日本シニア選手権での杉原は、朝日生命の選手として、周りで見ている方にまで伝わってくるような緊迫感のある練習をしていた。今まで見ていた「元気娘」とは違う表情になっていた。全日本シニアでは寺本明日香に次いで2位。11月に行われた全日本団体選手権には朝日生命の選手として、メンバー登録はされていたが演技はしなかった。