体操・杉原愛子は「浪速の元気娘」 日本のムードメーカーが目指す東京五輪

椎名桂子

リオから東京へ。波乱の4年間も「愛子スマイル」で

2019年の全日本インカレで杉原は個人総合優勝。団体でも武庫川女子の2位に貢献した 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 そして19年4月、全日本体操に杉原は兵庫・武庫川女子大の選手として出場。18年は全日本インカレで団体2位となり、女王・日本体育大を激しく追い上げていた武庫川女子へ編入したのだった。

 東京五輪を目指すためのよりよい環境を求めての上京だったのだろうが、めぐり合わせも悪かった。東京時代の杉原は成績も落ちていなかったし、日本代表には入り続けていた。

 それでも、あのリオ五輪のときの、底抜けの明るさは少し影を潜めていた。もともと、体操に取り組む姿勢はまじめそのものだ。東京五輪を目指す気持ちの強さからか、地元を離れ東京に出てきているということが気負いになっていたのか、明るさよりも真剣さのほうが色濃くなりつつあった。そんな中でけがも増え、試合にコンディションを合わせられないことも出てきていた。

「東京五輪に出たい」という気持ちがあるからこそ、「もう一度関西に戻って立て直そう」と考えてもおかしくない状況に見えていた。だから、武庫川女子への編入は悪くない選択に思えた。

 そして、杉原にとっては初めての全日本インカレ。19年8月21日、山口県の維新百年記念体育館での杉原の姿を見たときに、やはりこの選択は間違っていなかったと確信した。杉原はチームメイトたちの真ん中にいつもいて、誰よりも大きな声を張って応援していた。「大丈夫! いけるよ!」とあの満開の笑顔が戻ってきていた。関西の大学だけにジュニア時代からの知り合いも多いのか、編入してきたとは思えない溶け込みぶりで、「浪速っ子」らしさ全開だった。この全日本インカレで杉原は個人総合優勝。団体でも武庫川女子の2位に貢献した。

オールラウンダーとして団体メンバー入りを狙う

2019年の世界選手権代表メンバーの杉原。今年のNHK杯で3位以内に入り東京五輪出場を目指す 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 いよいよ東京五輪の年がやってきた。武庫川女子での2年目を迎える杉原が目指すのは、NHK杯で3位以内に入り、東京五輪の団体メンバー入りすることだ。

 リオ五輪のときは5人だった代表メンバーが、東京五輪は4人になる。女子に関しては、NHK杯での3位までに入れば代表入りが決まる。女子の個人総合は4種目だが、その個人総合での順位で代表を選ぶのだから、4種目まんべんなくできるオールラウンダーが有利になる。世界レベルの得点を得意種目ではマークできても、大きくへこむ種目があれば、4人しか選ばれないメンバーに入るのは難しい。

 この選考方法は杉原にとっては有利と言える。種目別1位になるほど得点源になる種目があるわけではないが、どの種目も高いレベルでそろえられる。そして、前の選手がミスをして雰囲気が悪くなったときや、この1本で勝敗が決まるというようなプレッシャーのかかる場面でのメンタルの強さが半端ないのだ。

 怖いものなしだったリオ五輪のあとの4年間は、決して順風満帆ではなかったかもしれない。それでも杉原は自分らしさを失わず、世界選手権の代表に入り続け、東京五輪の代表の座を争う舞台に踏みとどまった。

 まずは4月に予定されている全日本選手権で24位以内に入り、5月のNHK杯に進出し、そこで3位以内になればリオに続いての五輪出場となる。寺本がアキレス腱断裂で戦線離脱をしているが、エース・村上は健在。そして、リオのときは代表にはいなかった畠田瞳は、7日のアメリカンカップで銅メダル獲得と充実ぶりを見せている。天才肌の妹・畠田千愛も年齢をクリアし、代表争いに絡んできそうだ。18、19年の世界選手権で代表入りした梶田凪、松村朱里、ライバル・日体大の花島なつみ、中路紫帆なども虎視眈々(たんたん)と代表入りを狙っているだろう。

 杉原といえど、代表の座は安泰ではない。しかし、リオ五輪での明るい日本女子チームは見ていて気持ちがよかった。東京五輪でも「夢よ、もう一度」と願うならば、やはりそこには杉原愛子のあの大きな声と弾ける笑顔がほしいと思うのだ。

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著者プロフィール

1961年、熊本県生まれ。駒澤大学文学部卒業。出産後、主に育児雑誌・女性誌を中心にフリーライターとして活動。1998年より新体操の魅力に引き込まれ、日本のチャイルドからトップまでを見つめ続ける。2002年には新体操応援サイトを開設、2007年には100万アクセスを記録。2004年よりスポーツナビで新体操関係のニュース、コラムを執筆。 新体操の魅力を伝えるチャンスを常に求め続けている。

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