4年ぶり再戦を制すのは順心か、神村か 高校女子サッカー選手権・決勝を占う

西森彰

チームを固めた神村、選択肢が多い順心

強豪を退けて決勝に駒を進めた藤枝順心。試合巧者ぶりを発揮できるか 【西森彰】

 次に、決勝を戦う両チームの選手に触れておこう。

 4-2-3-1の神村学園はキャプテンの菊池が中心。ストイックな性格でしっかりチームを引き締め、「先生がもうひとりいるみたい」とチームメートから声が上がり、寺師監督も「言いたいことは全部彼女が言ってくれるから、僕はいなくてもいい」と信頼を置く。菊池とコンビを組む溝上可夏も、得点力が高いボランチだ。

 攻撃では、年代別代表にも選ばれた愛川が筆頭格だ。緩急をつけたドリブルは、体を当てるのも一苦労。スタートポジションは右サイドだが、左でも、真ん中でもプレーできる柔軟性を持ち、シュートレンジも長く「毎試合、得点を取るのが目標」(愛川)。彼女に自由を許すと、藤枝順心は厄介な事態を招くだろう。

 桂亜依が左サイドハーフ、塚田亜希子が1トップを任されそうだが、「ほとんどの選手が2つ以上のポジションをできるようにしている」(塚田)。マッチアップの優劣に応じて、特徴を出しやすい形に変化することも可能だ。さらに、トップ下の田上歩実が気の利いたポジション取りで、守備網のほころびを誘う。スーパーサブ的存在が得点力の高い近藤千寛だ。

 守備では、國生乃愛と年代別代表の神水流琴望が相手のエースを封じる。前線を積極的にサポートする豊村文香と、センターバックもこなせる守備力とスピード、運動量を兼ね備えた西尾彩花がサイドに回りそう。守護神はここまで2失点の若松杏海だ。

 絶対的な走力を武器にスペースへ飛び出し、相手を引きずり回して体力を奪う。もともとスタミナに自信のあるチームだけに、中4日の決勝戦では、先発を大きく変更することはないだろう。

 一方、藤枝順心には選択肢が多い。「毎試合、直前までどの選手で行こうか悩んでいる」と多々良監督。4-3-3と4-4-2のどちらでも戦える。1回戦で2得点の金子は「さまざまなやり方で臨んでくる相手に対して、ひとつのやり方では難しい。何個かパターンを持って、相手の状況を見ながらやり方を変えることで崩せるようになってきました」と、その長所を解説する。

 攻撃は、昨年大会の大ケガから復活した池口響子が中央に張り、一時期のスランプを脱した小原蘭菜がサイドからゴールに迫る。「去年も『響子がいれば』というところはありました。ずっとリハビリを頑張っている姿を見てきたので、戻ってくれてうれしい。蘭菜も1、2回戦で連続得点。ここで決めるのはさすがだけど、もっと頑張ってほしい(笑)」と長江。

 野嶋彩未、渡辺凛ら大仕事の実績がある3年生から、斉藤花菜、窓岩日菜ら下級生まで、駒は豊富だ。どの選手もシュートチャンスで足を振り抜けるアタッカーで、その日の調子を見ながら、交代カードを切れる。中盤は運動量豊富な金子と攻撃力に長けた柳瀬楓菜、攻守のバランスを取る浅野綾花が構成する。

 最終ラインは、攻撃能力も高い堀内意と角田菜々子をサイドに置き、センターバックはカバーリングに長けたキャプテンの長江が、人に強い宮本仁奈とコンビを組みそう。相手のサイドハーフをケアして宮本にサイドでフタをさせ、経験豊富な山盛愛菜を長江のパートナーに起用する可能性もある。GKは松井里央。大会ナンバーワンの呼び声が高かった小笠原梨紗(日ノ本学園)にPK戦で勝利を収めている。

 年代別代表の井出ひなたをケガで失っても、盤石の陣容だ。選手の組合せ次第で戦い方も変化する。

先制点を奪いに行くか、与えないか

藤枝順心は準々決勝でPK戦の末に日ノ本学園を撃破。GK松井(左端)が勝利に導いた 【西森彰】

 勝敗の行方を占う上で、先制点が持つ意味は大きい。高校女子サッカー選手権が、神戸に戻ってきた第23回大会から昨年度の第27回大会まで、先制点を奪われたチームはすべて敗れている(第23回大会はスコアレスドローからPK戦、第24回大会は逆転、再逆転で決着)。

 今大会もほとんどの試合で、先制点を奪ったチームが勝利してきた。藤枝順心の例外は、準々決勝の日ノ本学園戦(0-0、PK戦4-3)だけ。神村学園も準々決勝の大商学園(大阪)戦(3-1で逆転勝利)で先手を許したが、その他は先行逃げ切りだ。

 どちらも欲しい先制点だが、アプローチはやや異なるかもしれない。

 神村学園は積極的に1点を奪いに行くはずだ。3回戦の大商学園戦では2-1で迎えた終盤、コーナーフラッグ付近でのキープを求める指揮官の声を、ピッチ上の全員が無視して攻撃を続行し、3点目を奪った。準決勝の大阪学芸(大阪)戦でも同様に、虎の子の1点を守るのではなく、試合を決するゴールを目指した。選手全員が「攻め切る」と意志統一しているのだ。

 藤枝順心は懐が深い試合巧者だ。相手が前にかかっている局面では、しっかりとした守備からのカウンターを、疲れが見えてくれば枚数をかけた攻撃を繰り出してくる。「高い戦術遂行能力が、ここ数年のうちの特徴」と多々良監督。この決勝戦には、どういったゲームプランを用意してくるだろうか。

 両チームのキャプテンはINAC神戸レオネッサへの加入が内定している。卒業後、ホームとなるノエビアスタジアム神戸で優勝カップを高々と掲げるのは、藤枝順心の長江か、それとも神村学園の菊池か――。

 第28回高校女子サッカー選手権・決勝戦は1月12日(日)、14時10分にキックオフを迎える。

第28回全日本高等学校女子サッカー選手権大会

【(C)JFA】

未来のなでしこ 高校最後の青春ドラマ
決勝 1月12日(日)14:10キックオフ

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著者プロフィール

なでしこジャパン、なでしこリーグの取材は2020年で19年目に突入。なでしこジャパンが戴冠したドイツ大会をはじめ、女子ワールドカップは4大会を現地で取材。『サッカーダイジェスト』を中心に執筆し、姉妹誌『高校サッカーダイジェスト』には、13年の創刊当初から携わっている。18年に創設されたバロンドール女子部門には2年連続で投票。

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