女子サッカーを変えた「高校選手権」 元なでしこ監督と選手が感じる、その意義

西森彰

なでしこジャパン前監督の佐々木則夫さん(中央)、高校女子サッカー選手権の放送に携わってきた川上直子さん(左)、浦和レッズレディースの安藤梢さん(右)が語ってくれた 【中村博之】

 冬の風物詩「高校サッカー選手権」は男子だけのものではない。毎年1月に開催される「全日本高校女子サッカー選手権」。男子同様、高体連(全国高等学校体育連盟)所属の女子チームにとっての夢舞台である。今年も兵庫県各地で熱戦が繰り広げられ、残すは1月12日の決勝戦(藤枝順心vs.神村学園)のみとなった。

 そこで今回、なでしこジャパン前監督の佐々木則夫さん、元なでしこジャパンで、高校女子サッカー選手権の放送に長年携わってきた川上直子さん、浦和レッズレディースの安藤梢さんを招いて、高校女子ナンバーワン決定戦に迫る。指導者、解説者、選手と、それぞれの視点から、大会の意義と進化、そして魅力を語ってもらった。

安藤「一度も出られなかった…憧れの大会」

高校女子サッカー選手権は高体連所属の女子チームにとって夢舞台。今年も熱戦が繰り広げられた 【西森彰】

――まずは、皆さんの高校女子サッカー選手権との関わりを教えてください。

川上直子(以下、川上):私は、田崎ペルーレFCというクラブチームでプレーしていましたが、神戸で夏にやっていたこの大会(2012年度から1月に開催)のことは知っていました。また、この大会でプレーして、ペルーレに入ってくる先輩もいました。じっくりと大会を見るようになったのは、テレビでこの大会の解説をするようになってからです。

安藤梢(以下、安藤):私は(栃木県立宇都宮女子高校サッカー部の)選手として、この大会を目指しましたが、一度も出ることができませんでした。私たちのチームは、関東大会の1回戦を突破できればうれしいというレベルだったので、そういう意味では、憧れの大会です。

川上:安ちゃんは、ちっちゃい頃からうまかったんだから、どこかの強豪校から誘いとかなかったの?

安藤:そのときには、栃木県内に女子サッカー部がある学校が5つくらいしかなかったんです。私たちの学年は10人でしたが、先輩や後輩の世代では3人ということもあったので、自分たちで教室を回って「サッカーをやろう」と入部の勧誘をした記憶があります。

川上:県外に出ようという考えはなかったの?

安藤:そういう意識はなかったですね。声もかかりませんでした。私のときは常盤木学園(宮城)よりも聖和学園(宮城)の方が有名でした。

佐々木則夫(以下、佐々木):実は、僕も高校女子サッカーをやっていまして……。

川上:佐々木さんは、高校サッカーでバリバリの帝京高校出身じゃないですか!

一同爆笑

佐々木:いや、私ではなく、私の娘が女子サッカーをやっていまして。埼玉の学校でやっていたんですが、やっぱり高校女子サッカー選手権を目指していたんですよ。ほとんどが埼玉県大会敗退で、たまに関東大会に出ることがあったぐらいで、全国レベルではなかったんですけど、頑張っていましたよ。

 今は十文字高校(東京)でアドバイザーという立場で携わり、間接的に、選手を指導するスタッフに助言しています。僕が携わるようになってから、初めて選手権で優勝して、この夏にはインターハイでも優勝して……。

川上:十文字の練習自体を指導されることはあるんですか?

佐々木:練習を見ることはあっても、直接教えたり、トレーニングを構築したりはやっていません。十文字は東京の中央にある学校なので、全国から非常に優秀な選手が入ってきます。文武両道ということで勉強の方もすごくやってくれているので、非常に良いことだと思います。

高校時代は出場かなわず。安藤さんにとって高校女子サッカー選手権は「憧れの大会」 【中村博之】

安藤:私の学校もそういう文武両道という校風だったので、部室の中でも勉強している子たちがたくさんいました。私は代表合宿などで不在の期間があったのですが、その間の勉強なども教わっていました。

川上:私は残念ながら、佐々木さんと同じ時代の人間だったので、サッカーだけでした。佐々木さんもそうでしたよね?

佐々木:そうだよね(苦笑)。

川上:今になってみれば「文武両道だったら」と思いますが……(笑)。今の選手たちを見ていると、サッカーして疲れて帰るじゃないですか。それでも家に帰ってからしっかりと勉強をして、大学にも進学してすごいなと思います。

佐々木:ある程度、体を動かした後に勉強するとすごく効果があるというデータが出ているらしいよ。それを聞いて、あのときやっておけば良かったなって思いましたね。

川上:そうですよね。バリバリの帝京ですからね(笑)。

佐々木:ボール磨きをしている時間に勉強しておけば良かったなあ(笑)。

――当時から、未来のなでしこジャパンが高校女子サッカー選手権で活躍していました。

佐々木:うちの娘は、近賀(ゆかり)さんや矢野(喬子)さんと同じ世代ですから。娘の試合を応援に行ったら、近賀さんがいまして。珍しい名前だから、そのときから記憶に残っていました。

安藤:年下ですけど、近ちゃんは湘南(学院/神奈川)でFWをやっていて、高校時代からすごかったんです。福ちゃん(福元美穂)も、神村学園(鹿児島)で活躍していたGKでした。憧れの選手たちでしたね。代表に行くと一緒に練習ができるから、うれしかったです。

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著者プロフィール

なでしこジャパン、なでしこリーグの取材は2020年で19年目に突入。なでしこジャパンが戴冠したドイツ大会をはじめ、女子ワールドカップは4大会を現地で取材。『サッカーダイジェスト』を中心に執筆し、姉妹誌『高校サッカーダイジェスト』には、13年の創刊当初から携わっている。18年に創設されたバロンドール女子部門には2年連続で投票。

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