女子サッカーを変えた「高校選手権」 元なでしこ監督と選手が感じる、その意義

西森彰

佐々木「若い世代は非常にセンスが良い」

高校女子サッカーは年々進化している。技術、戦術はもちろん、チームを取り巻く環境も変わってきた 【西森彰】

――高校女子サッカーの環境、戦術など、ここ数年で変わってきた部分はありますか?

川上:まず、先発する11人の中にまったくの初心者という選手はいなくなりました。だから、しっかりとボールがつなげる。昔は、トラップをすると(ボールを)取られてしまうので、蹴るしかないという選手もいたんですよね。そういうのが最近はもう全くない。パワーを前面に押し出すチームも少なくなってきた。速攻型のチームが少ないかなと思います。

佐々木:以前は、シンプルにサッカーが行われていました。もちろん、点を取るための手段としては、ショートカウンターの方が確率は高まりますが、今は状況を見てボールを動かしたり、仕掛けたり、パスをしたり……。その使い分けが重要になるのですが、意図的にできるようになってきたかなと思います。

安藤:この前、たまたま試合前の練習で聖和学園(宮城)にグラウンドを貸してもらったときに、きれいな人工芝のグラウンドで、今は当たり前のようにこういうきれいな芝で練習するチームも出てきて「環境も変わったなあ」と思いました。私の高校時代は、関東大会に行っても、土のグラウンドで試合をやっていましたから。

川上:あとは、男子の高校サッカー選手権は47都道府県代表で争われますが、女子はまだ地域の代表です。そうすると、やっぱり女子サッカーが盛んでない地域もあったんですね。私がこの大会に仕事で携わり始めた8年前は、10点入るようなゲームも珍しくありませんでした。それが近年では、こういう大差のゲームがなくなってきました。

 人数が足りないからサッカーをやったことがない人がプレーをしているとか、本職のGKがいないから仕方なく誰かがやっているというチームは減ってきました。選手も左右の両足をしっかりと蹴ることができる選手が出てきていますし。

高校女子サッカーのレベルアップは著しい。佐々木さんも選手の能力の高さに感心する 【中村博之】

佐々木:私は、杉田(妃和)選手が、藤枝順心(静岡)にいた頃、試合を見に行って「こんなにすごい選手がいるんだ」とビックリしました。今は、そのまま代表でゲームメークをしていますからね。

 若い世代は非常にセンスが良いと言いますか。女子選手でも光るものを持ち合わせている選手がいます。その数が高校女子サッカーでも多くなってきていると感じます。

安藤:日テレ・ベレーザの宮澤ひなた選手がいた学校はどこですか? テレビで見たんですけど、授業中にサッカーの勉強をしたりするんですよね。

佐々木:星槎国際湘南(神奈川)ですね。去年の決勝戦では、ものすごいシュートで優勝したんだよね。準優勝は常盤木学園(宮城)か。

川上:星槎国際湘南は通信制の学校ですよね。パソコンなどで勉強すると聞いたことがあります。決勝戦と言えば、藤枝順心時代の杉田妃和選手も得点していましたね。私はこの大会で活躍した選手のその先の活躍も、ちょっと注目させてもらっています。ここで活躍した選手が、大学やなでしこリーグで頑張っている姿を見るのも楽しみです。

佐々木:決勝が東西対決になったらいいですよね(取材は12月19日)。十文字が優勝したときも、決勝の相手は関西の大商学園(大坂)だったよね。やっぱり「東西対決」ということで盛り上がりました。

川上:関西の学校が出てくるとブラスバンドが来てくれるし、 バックスタンドが埋まるので、テレビ映りもいいですよね。男子のサッカー部や野球部も応援に来てくれたりするんですよね。

川上「将来は都道府県代表での開催を」

川上さんが期待するのは男子同様、各都道府県代表で競う全国大会に発展すること 【中村博之】

――安藤さんのように、中学では男子とプレーしていた選手も、今大会に出場しています。

安藤:中学まで男子と一緒にプレーしていた選手は、けっこうできるんですよね。やっぱり、男子の方が足が速かったりするじゃないですか。そこで体幹や体の当て方とかを覚えて。

川上:こういう大会だと、一握りの選手にしかスポットライトが当たらないと思うんですけど、目立たないながらも、持っているものが素晴らしい選手もたくさんいます。ぜひ、1試合を通して選手を見てもらえればなと思います。

佐々木:ポンと光を放つ選手が、以前よりも増えてきていると思います。近未来の代表選手をみんなで発掘してほしい。みんなで応援してほしいし、会場、そしてテレビで、しっかりと見てほしいですね。

――高校女子サッカー選手権は将来こうなってほしい、という希望などがあれば、お聞かせください。

安藤:女子サッカーをやっている若い選手や子供たちが、こういう大会に出たいと憧れる存在であり続けてほしいですし、女子サッカーのためにも、もっともっとレベルが上がっていってほしいなと思います。そして、そこで活躍した選手に、なでしこリーグへ来てほしいですね。

川上:今、高校女子サッカー選手権は“全日本”という名前の通り、地域の代表が争う形ですが、そのうち男子のように都道府県代表で大会が成り立つようになれば、全国に女子サッカー不毛の地がなくなるんじゃないかなと思っています。何年かかるか分かりませんが、各都道府県代表の“全国高等学校女子サッカー選手権大会”が開催されるようになれば、と願っています。

佐々木:男子も歴史を経て、現在の形になっていますからね。日本らしいサッカーということで、個人としても、チームとしても、レベルを高めていただければ、後輩というか、少女たちの夢にもなるんじゃないかなと思います。それが、なでしこリーグ、なでしこジャパンへとつながっていきます。男子を追いかける形にはなりますが、そこで女性らしいステップを踏んでもらえればなと思います。

安藤:この大会で大活躍して、なでしこジャパンに選ばれるような選手が出てきたら、楽しみですね。頑張ってほしいと思います。

(取材協力:JFA)

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【中村博之】

佐々木則夫(ささき・のりお)(中央)
1958年5月24日、山形県生まれ。帝京高校から明治大学を経て、NTT関東(現大宮アルディージャ)でプレー。引退後は、大宮の初代監督、女子の年代別代表監督を歴任し、2008年になでしこジャパン監督に就任。11年女子W杯・ドイツ大会優勝、翌12年ロンドン五輪準優勝に導くなど、手腕を発揮した。現在は大宮のトータルアドバイザーとして活動する一方、十文字学園女子大学で副学長、びわこ成蹊スポーツ大学で特別招聘教授も務めている。11年にFIFAバロンドール女子最優秀監督賞を受賞。昨年、日本サッカー殿堂入りを果たした。

川上直子(かわかみ・なおこ)(左)
1977年11月16日、兵庫県生まれ。2004年アテネ五輪に参加した“初代なでしこジャパン”の主力メンバー。田崎ペルーレFC、日テレ・ベレーザに所属し、ボランチやサイドバックを務めた。現役引退後は、豊富な知識と自らの経験に基づいたトークで、全日本高校女子サッカー選手権をはじめ、女子サッカーの中継に欠かせない解説者となっている。ハワイアン人形に似ていることからつけられた愛称は“ハワイ”。

安藤梢(あんどう・こずえ)(右)
1982年7月9日、栃木県生まれ。宇都宮女子高校在学中に日本女子代表へ招集され、99年アメリカで開催されたFIFA女子世界選手権(後の女子W杯)のノルウェー戦で代表デビュー。これを皮切りに女子W杯に4回出場し、2011年ドイツ大会では優勝に大きく貢献した。37歳になった現在も、なでしこリーグの浦和レッズレディースで現役。衰えを知らない動きと戦術眼で、優勝争いするチームをけん引している。

第28回全日本高等学校女子サッカー選手権大会

【(C)JFA】

未来のなでしこ 高校最後の青春ドラマ
決勝 1月12日(日)14:10キックオフ

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著者プロフィール

なでしこジャパン、なでしこリーグの取材は2020年で19年目に突入。なでしこジャパンが戴冠したドイツ大会をはじめ、女子ワールドカップは4大会を現地で取材。『サッカーダイジェスト』を中心に執筆し、姉妹誌『高校サッカーダイジェスト』には、13年の創刊当初から携わっている。18年に創設されたバロンドール女子部門には2年連続で投票。

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