WSD歴代編集長が選ぶ「史上最高の名手」 初代・粕谷秀樹氏、9番は“バティ推し”

構成:YOJI-GEN

「ゴールゲッター=9番」という観点から、粕谷氏が最高評価を与えたのがバティストゥータ。DFを蹴散らしてゴールに向かうスタイルは、まさに「9番」のイメージにぴったりだという 【Getty Images】

 1994年創刊の海外サッカー専門誌『ワールドサッカーダイジェスト』(WSD)の歴代編集長が、「ワールドサッカー史上最高の名手」を選び出した。鼎談に参加したのは、初代編集長でサッカー解説者としておなじみの粕谷秀樹氏、現在はスポーツライターとして活躍する吉田治良氏、昨年まで編集長だった大類聡氏。1990年代、2000年代、2010年代と、それぞれの年代に編集長を務めた三者が、ゴールゲッター、パサーなど6つのカテゴリーについて意見を交わした。編集部在籍時の貴重な話も聞ける。

CBにとって一番怖かったんじゃないかな

インザーギのようなストライカーは希少。技術的にもフィジカル的にも特筆すべきところはなかったが、動物的なゴール嗅覚の持ち主で、DFとの駆け引きにも長けていた 【Getty Images】

大類聡(以下 大類):お久しぶりです。今日は歴代編集長による座談会ということで集まっていただきました。テーマは「史上最高の名手」です。

吉田治良(以下 吉田):90年代以降の選手から選ぶんだよね?

大類:そうです。線引きが難しいんですが、ジーコ、(ミシェル・)プラティニあたりは対象外。全盛期が90年代にかかっている(ディエゴ・)マラドーナ、(マルコ・)ファン・バステンのような選手はオーケーとしましょう。

粕谷秀樹(以下 粕谷):了解。

大類:では早速、ゴールゲッターからいきましょう。

粕谷:「9番」というふうに考えちゃいけないの?

大類:いいと思いますよ。ゴールゲッターという言葉をどう捉えるかもそれぞれで。

吉田:粕谷さんが考える「ザ・ストライカー」は誰ですか?

粕谷:90年代以降だと(ガブリエル・)バティストゥータかなあ。「9番」らしかったよね、一番。右足も左足も使えて、ヘディングでも決められたし。フィオレンティーナの時は(マヌエル・)ルイ・コスタ以外に頼りになる選手がいなかったのに、それでもゴールを量産してたからね。ズラタン(・イブラヒモビッチ)は「9番」じゃないし、ブラジルのロナウドはすごかったけど、ケガや病気で長く戦列を離れていたのがマイナスかな。

 バティより足下の技術があって、うまい選手はたくさんいたよ。でもセンターバックにとって一番怖かったのはバティなんじゃないかな。だって、壊されそうだもん。ディフェンダーを蹴散らして点を取る。「9番」って、そういうイメージなんだよね。

吉田:最近の選手みたいに何でもできるわけじゃないけど、ピッポ(フィリッポ・インザーギ)はいやらしいというか、あの嗅覚、感性はすごかったと思う。“ごっつぁんゴール”があれだけ多いストライカーは他にいないよね。

粕谷:100回オフサイドになっても101回目に(点を)取ればいいや、って感じでな(笑)。レフェリーとかディフェンダーとの駆け引きが絶妙で、それにあの見事なダイブ。ダイブもあそこまでいくと芸術だよ(笑)。VARがある今だったら、すぐにカードをもらいそうだけど。

吉田:ああいうタイプのストライカーがいなくなりましたよね。

粕谷:いていいよね。VARが導入されてから、駆け引きがなくなって、なんか面白くなくなったよな。

吉田:あの頃で言うと、(クリスティアン・)ビエリもすごかったですよね。怪物感がありました。

粕谷:バティと同じで、ディフェンダーを壊す選手だよね。ゴリゴリいって、多少コントロールをミスしても強引にシュートまで持っていっちゃう。

大類:得点数でいうと、クリスティアーノ・ロナウドと(リオネル・)メッシが突出してますよね。

吉田:2人ともPKとFKがあるのは大きいよ。その点、ブラジルのロナウドなんかはFKを蹴らないのに量産してたもんな。

粕谷:全盛期には、彼のドリブルに追いつけるディフェンダーはいなかったからね。ボールを持っている選手がなんでマーカーを引き離していくのか、普通に不思議だったよ(笑)。

大類:異次元でしたね。バルサでの1年と、インテルに行ってケガをするまでの1年半くらいですか。あの頃の支配力はメッシより上だったと思います。

吉田:バルサ時代のあのゴール……コンポステーラ戦だっけ?

大類:たしか、そうです。ハーフウェイラインの手前から次々と抜き去って決めたやつですよね?

粕谷:やっぱり「9番」の選手にしたいよな。

大類:現役の「9番」だとベストは誰ですか?

粕谷:(ロベルト・)レバンドフスキかな。何でもできるけど、サイドで生きる選手じゃないよね。やっぱり真ん中でゴリゴリいく「9番」。

吉田:(ハリー・)ケインはどうです?

粕谷:すごい選手だよ。「9番」というより「9.5番」かな。器用だよね。でも、バティとかビエリみたいなすごみは感じないな。この先出てくるかもしれないけど。「悪そう」じゃないよね(笑)。

吉田:ストライカーってそういう部分が必要ですからね。抜け目のなさというか。

粕谷:忘れてたけど、(ジャンルカ・)ビアリも「9番」ぽい選手だったよな。でもやっぱりバティかな。

大類:バティにしますか。ロナウドは全盛期が短かったですしね。

■WSD歴代編集長が選ぶ史上最高のゴールゲッター
ガブリエル・バティストゥータ(フィオレンティーナなど)

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デ・ブルイネのパスは「優しくない」

吉田氏が「認めざるをえない」と評価するシャビを、「ああいう選手は二度と出てこないかもしれない」と粕谷氏も絶賛 【Getty Images】

大類:続いてパサーにいきましょう。

粕谷:(即答で)マラドーナ。何でもできたからな。メッシよりマラドーナのほうがすごいと思うんだよな。

吉田:僕らくらいの世代はそうですよね。

大類:パサーは難しいですね。ゲームを作るタイプと、マラドーナとかロナウジーニみたいにラストパスで輝くタイプ。大きく分けると2つのタイプがありますね。

粕谷:(ケビン・)デ・ブルイネはすごいパスを出すよ。信じられないところから前線に通しちゃう。マンチェスター・シティの試合で何を見たいかと言えば、やっぱりデ・ブルイネだもんな。

吉田:デ・ブルイネのパスって強いですよね? シャビとか(アンドレア・)ピルロのパスとは違いますね。

粕谷:(受け手に)優しくないパスだよね。「お前ら止めろよ」って感じで(笑)。でも相手にとっても対応しづらいパスなわけだから。シティ以外のチームに行ったら、前線の選手はコントロールできないんじゃないかな。

吉田:やっぱりシャビかな。純粋に、認めざるをえない。タメを作って、(右サイドバックのダニエウ・)アウベスの上がりを引き出して出すパスなんて極上だったよ。今のバルサにはああいうパスがないもんな。

粕谷:確かにシャビはハンパなかったな。二度と出てこないかもね、ああいう選手は。

吉田:シャビがいなくなった後のバルサは、サッカーを変えざるをえなかったですからね。

粕谷:パサーで無視できない選手がもうひとりいるよ。

大類:誰ですか?

粕谷:(カルロス・)バルデラマ。インサイドキックだけで、あれだけゲームを作れるのはすごい。

大類:南米だからこそ、生まれた選手でしょうね。

粕谷:そうかもね。ヨーロッパだったら直されていたかもしれない。

吉田:現代のサッカーでどれだけやれたかは分からないけど。

大類:タイプは違いますが、(フアン・ロマン・)リケルメとか、最近なら(パウロ・エンリケ・)ガンソとか、ああいう特殊なスタイルの選手は生きにくくなりましたよね。他には(イバン・)デ・ラ・ペーニャとか。

吉田:デ・ラ・ペーニャ!

大類:スーパーパサーでしたよね?

吉田:そうだった。輝いた時間は短かったけど。

粕谷:あとはルイ・コスタか。カッコよかったよな。

吉田:フィオの選手で(ワールドサッカーダイジェストの)表紙にしたのはバティだけでしたっけ?

粕谷:いや、ルイ・コスタもあったんじゃないかな。たしか、白のユニホーム。

吉田:フィオの選手が表紙を飾るなんて、もうないでしょうね。

粕谷:まあ、ないな(笑)。あの頃のセリエAでは、(フアン・セバスティアン・)ベロンも良かったよね。プレミアに行ったのが失敗だった。練習で(デイビッド・)ベッカムのキックを見て、ショックを受けたらしい。移籍しなきゃよかったって(笑)。

吉田:僕はやっぱりシャビですかね。ピルロのロングレンジのパスも素晴らしかったですが。

粕谷:シャビでいいんじゃないか。

吉田:シャビとかピルロはあまり点を取らなかったですよね。点も取れるパサーとなると誰だろう。まあ、メッシか(笑)。

大類:メッシとマラドーナはすべてがすごいですから。

吉田:そう考えると、(ロベルト・)バッジョって何だったんだろうな。

粕谷:確かにな。途中からかわいそうになったもんな。ポジションがないチームにばかり行って。ブレッシャでは王様だったけど。

吉田:バッジョには稼がせてもらいましたよね?(笑)

粕谷:本当にな(笑)。

吉田:創刊号には(バッジョの)テレカのプレゼントを付けて。

粕谷:あったな。

吉田:当時はハガキでの応募で、ものすごい数が来て。あのテレカ、まだ持ってますよ(笑)。

■WSD歴代編集長が選ぶ史上最高のパサー
シャビ(バルセロナなど)

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