連載:井上尚弥、さらなる高みへ

伊藤雅雪がWBSS決勝を展望 「確率が高いのは、井上の3R以内KO」

船橋真二郎

「井上は1、2Rで相手を見極める能力が高すぎる」

「井上の3ラウンド以内のKO」というのが伊藤の見立て 【写真:ロイター/アフロ】

「確率が高いのは、井上君の3ラウンド以内のKO」というのが伊藤の見立て。現在のドネアの戦力、スタイルから井上攻略をイメージした時、「勝機が見当たらない」という。

 まず考えられるのは、やはり一発のカウンター。「『ボクシング・マガジン』で『イノウエとは、宮本武蔵と佐々木小次郎の勝負になる』ってドネアが言っているのを読んだんですけど、その一太刀の勝負ですね。落ちてきているといっても、その感覚は絶対に残っているはずなんで」。ただし、ドネアはボディワーク、ステップで、“目でよける”ディフェンスが主体になる。

「一番いい頃のドネアだったら分からないですけど、今のドネアが、よけて打つ、よけて打つ、“タイミングの勝負”の繰り返しで井上君とやり合ったら、かなり難しいと思います。いいのは井上君のパンチをしっかりブロックしながら押し込んでいって、混戦をつくった中で一瞬のタイミングを狙うやり方ですけど。井上君は接近戦でもディフェンスはいいし、パンチの回転も速いし、そもそもドネアにそういうボクシングはできないと思うんで」

 もうひとつの可能性はアウトボクシング。ドネアとの最初のスパーリングでは、伊藤のパンチがよく当たった。ところが、2回目は「僕のパンチを距離で外し始めました」。1回目で伊藤を見て、対応してきた。的確なポジションに動かれ、パンチを出しづらくなったという。

「でも、井上君の怖いところって、一撃のクリーンヒットで終わっちゃうところですよね。あれはスピード、パワーだけじゃなくて、当て勘がいいというか、当てる角度、当てる場所の精度が抜群にいいから。井上君は1、2ラウンドで相手を見極める能力が高すぎるし、踏み込みも速いので、1回のミスが命取りになると思うと、ずっとさばくのは厳しいですよね。『当たらない、ヤバイ』で雑に入ってくれればいいですけど、井上君は『簡単な試合じゃない』と言ってるじゃないですか。その時点でチャンスはないです(笑)。スキは見せてくれないと思うので」

「例えば」と伊藤が名前を挙げたのが、リオ五輪バンタム級銀メダリストで、10月26日(現地時間)にWBO世界フェザー級王座に就いたシャクール・スティーブンソン(アメリカ・13勝7KO無敗/22歳)。伊藤と同じトップランクがプロモートし、次期スター候補とも言われるリーチの長いサウスポーのように「スピードがあって、徹底して足を使ってアウトボクシングするようなスペシャリストだったら、もっと可能性はあると思う」という。

「1」に賭けてくるドネア

すでに井上尚弥には破格のオファーが届いているという 【写真は共同】

 では、ドネアはどう戦ってくるのか。

「僕は1ラウンドからドネアは出ると思います。井上君と打ち合った場合、9対1ぐらいの確率でドネアが不利ですけど、その1に賭けてくると思います。ドネアにとってはラストファイトの可能性もある。あれだけの選手がただでは転ばないと思いますし、何かを見せてくれる期待感もある。短いラウンドになるかもしれないけど、その中でも誰が見ても何かを感じるような試合にはなると思いますけどね」

 すでに井上には、軽量級としては破格のオファーがトップランクから届いているという。伊藤が最終的に行き着いた展開になれば、一瞬たりと目を離せない攻防の末、KOは必至。期待通りの華々しいパフォーマンスでドネア超えを果たし、WBSS優勝を飾れば、活躍の舞台は大きく広がることになる。

「同じボクサーとして、悔しさもある」という伊藤は今年5月、井上がイギリスでIBF王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2回で倒し、WBSS決勝進出を決めた1週間後、アメリカで王座から陥落した。9月に後楽園ホールで戦線復帰したが、目指すのは再びアメリカを舞台に活躍すること。トップランクからも試合の話はあるという。井上の勝利が伊藤の決意をさらに強くするはずである。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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