冒険の終わりと納得感のある悔しさ サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月20日)
日本の「未体験ゾーン」と2002年の記憶
初のベスト8進出に意気軒昂の日本のファン。まさに「威風堂々」の姿勢で南アフリカとの一戦に臨む 【宇都宮徹壱】
そんな日本の準々決勝の相手は、W杯で2回の優勝経験を持つ南アフリカ。実に因縁めいた相手である。まず思い浮かぶのが前回大会の「ブライトンの奇跡」だが、古くは11年のW杯招致を争った相手であり(結局ニュージーランドで開催)、直近では大会前の最後のテストマッチで敗れた相手でもある。くしくも今回の南アフリカ戦は、元日本代表監督の故・平尾誠二氏の命日ということで、そのことに言及するメディアも多い。だが「サッカー脳」の私は、まったく違った角度からこの試合に臨もうとしている。
今さら言うまでもなく、日本にとってトーナメントの戦いは、まさに「未体験ゾーン」である。ティア1(伝統国)2チームに勝利してのベスト8なのだから、もちろん戦っている当人たちは「さらに上へ!」という思いでいっぱいのはず。それは応援する側も同様で、特に私のように今大会からラグビーを見ている人間は「負ける気がしない」というのが率直な気持ちだろう。そんな中でふと思い出すのが、やはり02年の記憶。雨の宮城スタジアムで行われた、トルコとのラウンド16である。
あの時の日本代表も、誰もが「さらに上へ!」という気概に満ちていたはずだし、大半のファンやサポーターもトルコ相手に「負ける気がしない」と確信していたと思う。しかし一方で、本大会初勝利や初のグループリーグ突破など、初めて尽くしの状況に浮足立っていたのも事実。加えて開催国のノルマとされていた「決勝トーナメント進出」も達成し、当日のスタジアムには緩んだ空気が蔓延していたことを思い出す。結果、どうなったか? それについては、すでに記憶にない方もいるだろうから、後ほど触れることにしよう。
常識的に考えれば南アフリカが優位だが……
4年前の「ブライトンの奇跡」のリベンジに燃える南アフリカ。ファンもまたラグビー選手のような体格だ 【宇都宮徹壱】
サッカーとラグビー、両方のW杯を開催しているのは4カ国しかない。すなわち、イングランド、南アフリカ、フランス、そして日本。このうち南アフリカだけが、ラグビー→サッカーの順でW杯を開催している。現地を取材して実感したのは、かの国ではサッカーよりもラグビーが盛んであること、そして「ラグビーは白人でサッカーは黒人」と明確に分かれていることであった。もっとも今大会の南アフリカは、同国初の黒人キャプテン、シヤ・コリシがチームを統率。悪名高きアパルトヘイト(人種隔離政策)のため、ラグビーW杯に出場できなかった時代は、すでに歴史の彼方に移行しつつある。
この日、大分で行われたウェールズとフランスによる準々決勝は、ウェールズが劇的な逆転勝利を収めて、20−19という僅差で勝利。これで、前日に勝利したイングランドとニュージーランドに続いて、ベスト4の3枠が埋まった。実力と実績を考えれば、残り1枠は“スプリングボクス”(南アフリカ代表の愛称)が順当であろう。しかし19日更新の世界ランキングでは、南アフリカが5位で日本は6位。うんと手を伸ばせば届きそうな距離感だ。そんな根拠のない自信を胸に秘めつつ、19時15分にキックオフを迎える。
スコアが動いたのは、開始4分。最初のスクラムで南アフリカが圧倒し、マカゾレ・マピンピが左サイドを突破してトライを決める。ただしコンバージョンには失敗。さらに前半10分には、テンダイ・ムタワリラがイエローカードで10分間ピッチを離れる。プロップを1人失った相手に対し、日本はスクラムからペナルティーを得て、田村優が20分にゴール。40分のホーンが鳴った2分後、南アフリカが2つ目のトライを決めたかと思われたが、「ダブルモーション」という反則で無効となる。前半は3−5で終了した。