冒険の終わりと納得感のある悔しさ  サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月20日)

宇都宮徹壱

前半の南アフリカは追い詰められていた?

試合後のスタジアムで記念撮影をする各国の若者たち。日本代表の冒険は終わったが、大会はこれからも続く 【宇都宮徹壱】

 たとえトライが厳しくても、ペナルティーゴールで得点を刻んでいけばいい。後半の日本の反撃については、そんな割り切り方をしていた。しかし思惑とは逆に、相手にペナルティーのチャンスを与え続け、日本は後半4分と9分に失点。じわじわと点差が広がる中、プロップの稲垣啓太とスタンドオフの田村がベンチに下がる。戦術的な交代だろうが、どちらも日本の躍進に欠かせない存在だっただけに、残念な気持ちばかりが募った。後半24分にもペナルティーゴールを決められて3失点。反撃の糸口は見えてこない。

 その後も南アフリカは、自分たちの強みを発揮しながら得点を重ねていく。後半26分には強烈なモールからファフ・デクラークがトライを決め、30分にもラインアウトからマピンピがダメ押しのトライ。守っては「2台のフェラーリ」と称される、両ウイングの松島幸太朗と福岡堅樹に飛び込むスペースを与えない。かくして、日本は1つのトライも挙げることなく、3−26でノーサイド。1カ月にわたるジャパンの冒険はここに終わり、スプリングボクスは4年前のリベンジを見事に果たした。

 終わってみれば、力の差がはっきり出た試合であった。会見でそのことを問われた、キャプテンのリーチ・マイケルは「南アフリカが強すぎたのでなく、強みを100%出していた相手に対して、自分たちが対応できなかった」とコメント。それもまた、実力差なのだろう。一方、南アフリカのラッシー・エラスムスHCは「日本はティア1の2チームを破り、非常にいい状態にあった。ハーフタイムを迎えるまで、われわれは緊張状態にあった」と告白。少なくとも前半の40分、南アフリカは心理的に追い詰められていたことがうかがえる。その意味で日本は、まったく戦えていなかったわけではなかった。

 敗れたことは悔しい。けれども02年の「終戦」と比べると、はるかに納得感のある悔しさであった。前述したトルコ戦は、前半早々に失点を食らい、ふわっとした状態のまま0−1で試合終了。「よく分からないうちに敗れてしまった」というのが率直な印象であり、17年が経過した今でも「もう少し何とかなったのではないか」という思いはオールドファンの心にくすぶり続けている。あの時の無念を思えば、ラグビー日本代表の敗戦には、少なからずの救いも感じられよう(もちろん慰めにはならないだろうが)。

 日本代表の今大会での躍進が、何をもたらしたかについては、いずれ稿をあらためて論じるつもりだ。ジャパンの戦いは終わったが、大会そのものは11月2日まで続く。これからの2週間は、ホスト国としての日本が今大会をどう盛り上げ、どう終わらせるのか、ということに注目したい。試されているのはホスト国の国民、すなわち私たち自身である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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