酷暑のマラソンを海外識者はどう見たか? 勝ち方を考えるのもコーチや選手の仕事
眼鏡が曇るほどの湿気にあ然
棄権者が続出した世界陸上のマラソン。厳しい環境の中で、選手はどのようにレースを進めればいいか 【写真:ロイター/アフロ】
初日にいきなり“ドーハの洗礼”を受けた。11時間ほどのフライトを終え、空港から一歩足を踏み出した時だ。隣にいた知り合いの記者の眼鏡が、尋常ではない湿気のせいで一瞬にして「曇った」。その時は思わず笑ってしまったが、すぐに笑いごとではなかったと思い知らされることになる。
大会初日の女子マラソンでは一部の選手が救急車や車いすで運び出され、完走率は過去最低の58.8%。また、特に暑さのきつかった2日目に行われた男子50キロ競歩では、金メダルに輝いた鈴木雄介(富士通)でさえも「歩き切れるか怖かった」と話すほど過酷なものになった。
日本でもさまざまな報道がされた中、海外の識者たちはどう見ていたのか。そして、この経験を東京五輪にどう生かすべきか。2人の元五輪ランナーの考えを、前・後編に分けてお伝えする。前編では高温多湿の環境下でのレースの走り方について、それぞれの体験から意見を述べてもらった。
暑いレースならではの戦い方
豊富な取材体験をもとにした話を聞かせてくれたフランコ・ファヴァさん 【スポーツナビ】
ファヴァさんは今大会のロード種目について、こんな話を聞かせてくれた。
「この高温多湿の環境だと、選手のパフォーマンスは確実に落ちます。ただ、コンディションが悪いと分かっているので、どのようなレースの様相になるのか予想がつく。そのためにどういう練習をすればいいのかが明らかになっているので、それはプラスになると思っています」
ファヴァさんが入賞を果たしたモントリオール五輪では、大会前半は30度を超える暑さだったが、レース当日は気温が17〜8度で、しかも雨が降っていたという。「日本でもマラソン出場経験があるフィンランドのユッカ・トイボラ選手は、暑さを想定したベストを着てやってきて、『これは大丈夫かな?』という感じで見ていました(笑)。このように、普通のレースだと当日までどんな天気か分かりません。でも、今回のドーハや来年の東京五輪の場合は、多少の違いはあれど、これほど寒い状況になるのはありえないので、それが分かっているということはすごくプラスになります」
こうした暑いレースでの「勝ち方」については、事前の下馬評を覆して2004年のアテネ五輪で優勝した、ステファノ・バルディーニ(イタリア)の話をしてくれた。
「この時のレースは夕方に始まって、フィニッシュしたのは夜でした。なのでバルディーニは序盤、ずっと後ろの方で走り、体力を温存して、暑さが和らいだ終盤にごぼう抜きを見せて優勝しました。まさに天気を味方につけた作戦勝ちでした。最初は先頭がかろうじて見えるくらいの位置で走り、確実に少しずつ水をとって自分のペースを守る。先頭が見える範囲であれば構わないので、他のランナーが何をしているか気にせず、ともかく自分が楽に走れるペースで走ることを心がけていたと、バルディーニ本人が話していました」
東京五輪は朝6時にスタートするため、アテネの時とは反対に時間が経つにつれて気温は上がっていく。そのため「この方法は全然効かないけど……」と前置きした上で、「こうした作戦を考えれば、暑いところでも勝つ方法はある。それを考えるのがコーチや選手の仕事ですね」と、ファヴァさんは力強く語った。