酷暑のマラソンを海外識者はどう見たか? 勝ち方を考えるのもコーチや選手の仕事

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暑さにうまく順応したマーラ・ヤマウチさんの体験

北京五輪で6位入賞を果たし、喜ぶマーラ・ヤマウチさん。自身が行っていた暑さ対策を明かしてくれた 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

 次に話を聞いたのは、イギリス代表として08年北京五輪の女子マラソンに35歳で出場し、6位入賞を果たしたマーラ・ヤマウチさん。元外交官という異色の経歴を持ち、1998年に日本へ赴任。2002年に帰国するも、06年には競技に専念するために再来日し、計9年間日本で暮らしていた。13年に現役を引退した後は、祖国のイギリスと日本の両国でランニング教室などの活動を行っている。

 08年北京五輪を目指していたヤマウチさんは、前年に行われた世界選手権・大阪大会でのマラソンに出場(結果は9位)。ゴール時には気温32度に達した暑さの中で走り切った。ヤマウチさんはこのレースを「翌年へのリハーサル」として活用していたという。

「大阪と北京の前は、2週間前から暑さ対策をしていました。普通のマラソンであれば、2週間前はかなりハードな練習をしているのですが、その時は3週間前にハードなトレーニングを終えて、そこから暑いところへ行って練習量を落とし、体を暑さに慣れさせました。

 最初は朝4時から20分だけジョグをして、慣れてきたら10時からに変更するなど、少しずつ慣らしていきましたね。(暑熱対策の)期間については、2週間以上だと体を壊す心配があるし、1週間だけだと足りない。人によってやり方は違うと思いますが、私は2週間くらいがちょうど良かったと思います」
 ヤマウチさんが最初に日本にやってきたのは1998年8月で、「『この暑さは最悪だな』と思っていました(笑)」と衝撃を受けたという。ただ、翌年からは水分補給の回数を増やすなど、普段の生活から日本の暑さに慣れるように取り組んでいたことが、高温多湿のレースで結果を残せた一因になっていたのかもしれない。実際に試合を走ることによって、それを実感したこともあった。

「大阪の時は暑いから給水をたくさん取らなければいけないと思って、給水ポイントで何ミリリットル飲むかを全て計算して置いていたのですが、ゴールしたらすぐにトイレに行かなければならなかったんです。つまり、水を飲みすぎていたんですね。マラソンの場合はスタート時の脱水状態は避けたいですが、ゴールの時は少しなら脱水になっていてもいいのです。だから北京ではその反省を生かして、飲む量を少なくしました」

 やはり実際にレースを体感し、自分の体に起きた反応を分析することほど、参考となる研究はない。ヤマウチさんの場合は、それを生かして暑さへの対策の調整を行えたことで、35歳の五輪初出場にして初入賞という快挙を果たすことができた。

 ファヴァさんからは豊富な取材体験をもとに、ヤマウチさんは自身が2年続けて暑さの中で戦った経験をもとに、それぞれ貴重な意見を聞かせてもらった。後編では、今大会で世界各国がどんな暑さ対策を行っていたのか。そして、今大会から来年の東京五輪が学ぶべきことについて2人の意見を紹介する。

(取材・文:守田力/スポーツナビ、取材協力:K Ken 中村)

<後編は10月10日(木)に掲載予定です>

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