ご近所でのティア1対決と非日常の光景 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(9月29日)

宇都宮徹壱

スタンドを盛り上げた絶妙な選曲、そして突然の照明トラブル

会場を出て帰路につく間も、あちこちで海外からの客人に出くわす。まさにW杯ならではの光景である 【宇都宮徹壱】

 最後に、オーストラリア対ウェールズという大一番の会場となった、東京スタジアムの運営について触れておきたい。この日は評価すべきことと残念なこと、2つのトピックスがあった。まず評価したいのが、会場の雰囲気づくり。とりわけハーフタイムで流れたニール・ダイアモンドの『スイート・キャロライン』は、オーストラリアとウェールズ両国のサポーターがノリノリで大合唱していた。69年に米国でリリースされたこの楽曲が、なぜ彼らの琴線に触れたのかは分からないが、実に絶妙な選曲だったと言えよう。

 一方で残念だったのは、試合終了5分前に会場の半分の照明が消えてしまったこと(結局、試合終了後も薄暗いままだった)。幸い半分が持ちこたえたので、大事故とはならなかったものの、ぜひとも原因究明と再発防止に努めてほしいところだ。それでも、サッカーファンにとっての「味スタ」が、ラグビーW杯の東京会場として立派に機能していることについては、近隣に暮らす都民として誇らしい限り。そして何より、こんなにご近所で最高峰のラグビーが楽しめることに感謝したい。

 現場での取材を終えてから、20分ほど歩いて白糸台駅から西武多摩川線に乗車し、武蔵境駅まで戻る。いつも見慣れた駅の構内が、この日は黄金ジャージのオーストラリア人と赤いジャージのウェールズ人であふれかえっていた。日常の光景が非日常に切り替わる瞬間。これこそがW杯ならではの光景である。この次に東京スタジアムを訪れるのは、10月19日と20日の準々決勝。日本代表が予選プールを突破していれば、この界隈は再び赤白ジャージのファンで埋め尽くされるはずだ。その前に、プールAのライバルたちの動向を探るべく、明日はスコットランド対サモアが行われる神戸に向かうことにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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