連載:川内優輝物語 -ゴールなきマラソンマン-

川内優輝物語 -ゴールなきマラソンマン- 第6話 二足のわらじの限界

栗原正夫
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今季、「市民ランナー」から「プロ」へと転向をした川内優輝。マラソンの原点から世界陸上、そしてその先へと続く彼の人生に迫ったノンフィクションストーリー。イラストは川内のバイブルともいえる漫画『マラソンマン』の井上正治が描き下ろし。

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17年世界陸上での失敗

 40キロ過ぎだった。日本人トップを走っていた中本健太郎の背中を捉えると、猛然と速度を上げてきた。そして一気に中本を抜き去り、苦悶の表情を浮かべながらも大歓声の中、発着点だったロンドン・タワーブリッジ中央のゴールまで駆け抜けた。

 40キロ以降のラップタイムは6分41秒。優勝したジョフリー・キルイ(ケニア)の6分51秒をも上回った。

 だが、目標にしていた入賞(8位以内)までは、わずかに及ばず。一時は17位まで落とした順位を9位まで上げたものの、8位のダニエル・ワンジル(ケニア)までは、あと3秒届かなかった――。

【(C)井上正治】

 2017年8月6日、ロンドン。川内優輝にとって3度目となった世界陸上は、2時間12分19秒の9位に終わった。

 最後の日本代表と宣言していた舞台であわよくば表彰台、最低でも入賞は狙いたいと目標を口にしていた川内。レース序盤はベテランの中本をマークすることに決めていた。

 中本と川内は、ともに11年大邱(テグ)、13年モスクワの世界陸上で日本代表となっており、いずれの大会でもやや突っ込み気味の走りで自滅した川内に対し、安定感のある中本は先着していた。

 12年五輪・ロンドン大会6位、13年世界陸上・モスクワ大会5位と世界大会で2度入賞していた中本が大崩れしないことを、川内は知っていた。それだけに、まずは中本をマークし終盤まで好位置をキープできれば、必ずチャンスは訪れると踏んでいたのだ。

 だが、序盤で看板に足をぶつけるハプニングに遭うと、23キロ付近の曲がり角では段差でまさかの転倒。中間点を前にズルズルと後退し、レース前の思惑は脆くも崩れ去った。
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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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