菊池雄星は田中と投げ合い、何を得たか 「強いチームとやって学ぶこともある」

丹羽政善
 8月27日(現地時間)、マリナーズ・菊池雄星とヤンキース・田中将大の投げ合いが実現した。7回無失点の好投で6年連続2桁勝利となる10勝目を挙げた田中と、4回5失点と試合をつくれなかった菊池の差とは。そして、メジャー1年目の菊池にとって、この投げ合いからどんなことを得られるのだろうか。

ヤンキース・田中将大とマリナーズ・菊池雄星の投げ合いが実現。結果は田中が7回無失点の好投で勝利、菊池は4回5失点KOと対照的だった 【写真は共同】

 対照的というか、圧倒的というか。

 ボール支配率で言えば、圧倒的にヤンキースがボールをキープ。菊池は防戦に追われた。一方で田中は後方に控え、たまに転がってくるボールをクリアするだけ。淡々とマリナーズ打線からアウトを重ね、4回まで1本のヒットも許さなかった。

 そのことは、本人たちの言葉の中にもにじむ。

 菊池が、「ボール自体は前回とあまり変わらないと思ったけれど、レベルの高い打線は甘い球を見逃してくれない」と話したのに対し、田中は「序盤からスライダー、スプリットを効果的に使えた。味方が早い段階で点数も取ってくれたので、リズムに乗っていくことが出来た」と振り返った。

 片や、ミスの余地なしという悲壮感が漂い、片や、余裕がうかがえる。

前日はゆる〜い感じでスタート

 その田中対菊池のマッチアップは前日、ゆる〜い感じでスタートした。

 練習を終えた菊池が、ちょうど練習を始めた田中のところへ歩み寄って談笑。翌日に登板を控えている投手同士だが、田中が菊池に、スプリットの投げ方を教えているようなシーンも見られた。

「いろいろ、お聞きしたいことがあったんで、ついつい、聞いちゃいました」と菊池。屈託のない笑みを浮かべながら続けている。「めったにお会いできないので」。

 さらには、「僕が中学生のときから、甲子園で(投げるのを)見ていて、あこがれの存在。日本で対戦する機会はなかったんですけど、こうやってまさかアメリカで対戦できるというのは本当に幸せ」とも話している。

 しかし田中がその言葉を伝えられると、苦笑しながら応じた。

「無理やり聞いて、無理やり答え出してもらったんでしょ? そんなん、聞いたことない。優しいからそう言ってくれたんでしょ?」

菊池、2本のアーチに沈む

前日は菊池が田中のもとへあいさつする形で対面。穏やかな表情で談笑した 【写真は共同】

 もっともそんなぬるい空気は当日、アーロン・ジャッジの目の覚めるような一発で一変する。打球初速114マイル(約183キロ)、打球角度20度という乾いた音を残した打球がバックスリーンに突き刺さると、球場はどよめきに包まれた。打球を見上げた菊池は、あっけにとられているかのようだった。

 その回は後続を断ち、2回も2死から走者を得点圏に背負うも、無失点で切り抜けた菊池だったが、3回は無死一、二塁でブレッド・ガードナーに3ランを許し、早くも5失点。前回のブルージェイズ戦で完封した面影はなかった。

「まだまだ、自分には課題がある」

 菊池はまたしても、宿題をつきつけられた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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