“球の速い変化球投手”ダルの復活 「お股ニキ」が復調の理由を分析

お股ニキ

オールスター明けから本来の姿を取り戻しつつあるダルビッシュ。日本時間5日のブルワーズ戦では5回1失点と好投し、4勝目を挙げた 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 カブスのダルビッシュ有が日本時間(以下同)5日、ナショナル・リーグ西地区で優勝争いをするブルワーズ戦に先発し、5回1失点、8奪三振の好投で今季4勝目を挙げた。現在『セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論』を上梓、選手のプレーや監督の采配を中心につぶやいていたTwitter上でダルビッシュと親交ができたお股ニキ氏に、今季のダルビッシュを分析してもらった。

4シームの質が悪かった序盤戦

 本来のダルビッシュが戻ってきた――。

 7月は5試合の登板で勝敗こそ1勝1敗だったものの、30回3分の2を投げて防御率2.93。36三振を奪って、被打率2割4厘、わずか2四球と、6年総額1億2600万ドル(約137億円)の大型契約にふさわしい支配的な投球をようやく披露した。序盤戦、防御率5点台と不調に苦しんだダルビッシュだが、何がここまで変化してきたのか。その推移を書いてみたい。

 ダルビッシュの評価の高さは何よりもその奪三振能力やボールの質の高さ、球種の多さにある。序盤の不調の時期を含めても4シーム(ストレート)の回転数はメジャーでもトップクラスで、ホップするような軌道で空振りを多く奪える質を持っている。

■回転数ランキング(1000球以上)
1.マイク・マイナー(レンジャース/9勝6敗・防御率3.21)  2642rpm
2.ジャスティン・バーランダー(アストロズ/14勝4敗・防御率2.68) 2577rpm
3.ジェフ・サマージャ(ジャイアンツ/8勝8敗・防御率3.75) 2561rpm
4.ゲリット・コール(アストロズ/13勝5敗・防御率2.87)  2522rpm
5.ダルビッシュ有(カブス/3勝5敗・防御率4.46)  2514rpm
※rpmは1分間の回転数の単位。成績は日本時間8月4日終了時点の今季成績

 ところが、回転数は良くても、4・5月はこの4シームの質や制球が悪かった。昨年ひじに痛みを抱えながらも復帰を模索して痛みの出ない投げ方をしている内に、投球フォームに変な癖がついてしまっていたのだという。結果、引っ掛けてのワンバウンドや抜けるボールが多く、これまでの感覚で力勝負にいった高めの4シームを痛打されるシーンが目立った。一時はリーグワーストの四球を与え、前半戦の被本塁打数20本もリーグワーストだった。

 思うように4シームが走らず制球もままならない中で、光明を見出したのがカットボールだった。拙著 #お股本 (『セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論』の愛称)でも紹介するタテに落ちるジャイロ回転のカットボールだけは不調時でも制球良く操れていて、被打率、空振り率、ゴロ率などの指標ではメジャートップクラス。応急処置的にとりあえずストライクを取り、カウントを整える目的で多投し、しのいでいった。

配球を見直した後半戦

7月に与四球と被本塁打が大きく減少した要因のひとつに、オールスターブレークで配球を見直したことがある 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 改善へ向けては、映像やデータを分析し、理論派で知られるトレバー・バウアー(レッズ)との情報交換など、さまざまなトレーニングをしながら修正を図った。重さの違う数種類のボールを投げ込み、ブルペンでも1球1球ボールのデータを確認してきた。徐々にボールの質や制球を取り戻し、5月16日のレッズ戦では6回途中まで2失点、11奪三振。与四球はゼロだった。

 また、制球と質のいいカッターでしのいでいる内に制球が改善し四球が減少、高いゴロ率を記録するなど調子を取り戻してきた。その中で被本塁打が最後の課題となった。4シームとカッターをメインとする速いボールを中心とした配球が主だった前半戦は、左バッターに速球系を狙われて痛打を浴びた。

 ここでヒントとなったのが、6月16日に先発した古巣のドジャース戦だった。野球生命をかけて臨んだこの試合。初回から好調で、カウントを整えるのに、カットボール、スラッター、スライダー、カーブ、スプリット、2シーム、4シームと多彩な球種を駆使した。勝敗こそつかなかったものの7回1失点、10奪三振と意地のピッチングだった。

 すべてのボールの質と制球が改善してきたことに加えて、オールスターブレークで配球を見直した。前述のドジャース戦の好投もあり、速球で入ることを控え、カーブや遅いカットボール、これまで唯一苦手だった遅いチェンジアップなどを交えて緩急をつけてカウントを取るようになると、後半戦から見違えるように四球(6月までは90回で49与四球)と被本塁打が減少した。

 2010年オールスターで披露したライジングカットや速いカッター、斜めのスラッター、遅いカッターなどカットボールだけでも複数を使い分け、七色の変化球ならぬ8種類の球種の全てを高精度で操るダルビッシュ。4シームも回転効率が改善して98マイル(158キロ)を計測するなど、「球の速い変化球投手」ダルビッシュの真骨頂を発揮しつつあり、現在は「キャリア最高の状態」と本人も胸を張る。

 データ分析により傾向が丸裸にされ、さまざまな対策がされる現在のメジャーリーグ。ただ、「球の速い変化球投手」ダルビッシュには追い風が吹いている。例えばカットボール対策をされていても、カットボールの軌道から違う変化のボールを投げ分けられるだけの技術が復活している。相手打線はヤマを張りづらく、厄介だろう。

 激戦のナ・リーグ中地区での優勝争いを勝ち上がり、ワールドシリーズの忘れ物を取り返す真の「勝てる投球」に期待したい。
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著者プロフィール

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、さまざまなデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ2019年8月現在、2万5000人以上にフォローされる人気アカウントとなる。プロ選手にアドバイスすることもあり、なかでもTwitterで知り合ったダルビッシュ有選手に教えた魔球「お股ツーシーム」は多くのスポーツ紙やヤフーニュースなどで取り上げられ、大きな話題となった。著書に『セイバーメトリクスの落とし穴 マネー・ボールを超える野球論』。大のサッカー好き。

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