連載:それってホント? 野球の定説を検証

“先発タイプ”ってどんな投手のこと? 救援との持ち球比較で見えた傾向とは

Baseball Geeks

使う球種は先発と救援で違う

 続いて、投手がどんな球種を持ち球としているのかを見ていく。各球種がどれくらいの割合でそれぞれの投手の持ち球となっているのかを比較した。

【Baseball Geeks】

 速球はメジャー全体で最も投球割合が高く、先発投手・救援投手ともに9割を超える投手が使用している。また、日本ではほとんど見られないが、速球を投げず2シームやカットボールを投球の中心としている投手も一定数存在した。

 一方変化球は、先発投手・救援投手で割合に大きな違いがみられた。特に差が大きかった球種は、カーブとチェンジアップ。先発投手の方が高い割合で持ち球としており、両群で約30%も差が開いていた。

 この両球種の特徴は球速が遅いことである。先発投手は、長いイニングを投球する能力が求められる。全力で100球近く投げ続ける事は容易でないうえ、打者も2巡3巡とするうちに投手のボールに目が慣れてくる。緩いチェンジアップを使って左右上下だけでなく「奥行」を広く活用したり、打者の打ち気を逸らすような大きな変化のカーブを使ってカウントを整えたりする事で、さまざまな打ち取り方を目指しているのであろう。

 また、カットボール、2シームも先発投手の方が持ち球の割合が高い。この2つの球種は非常に高速な変化球である。先発投手は球速の遅い変化球だけでなく、高速かつ変化の小さな変化球も織り交ぜて、ファールでカウントを整えたり、早いカウントでゴロを打たせたりしているのであろう。

多彩な球種を駆使するダルビッシュ 【Getty Images】

 逆に救援投手の方が多く持ち球としていた球種は、スライダー、スプリットであった。この両球種は、「空振り割合が非常に高い」という特徴がある。救援投手は1点も与えたくない場面や、すでにランナーをおいた場面での投球が多い。打者がバットに当ててしまうとアンラッキーでも失点する可能性があり、バットに当てさせない意図で空振り割合の高い球種を投げこんでいるのであろう。

「先発投手の適性」とは

持ち球から探る先発投手の適性とは、「幅広い球速の球種を、多く扱える能力」といえるだろう 【Getty Images】

 ここまで持ち球にフォーカスして先発投手の適性を探ってきた。以下に傾向をまとめてみたい。

・先発投手は救援投手よりも持ち球の「数」が多い
・先発投手は「球速が遅い球種」を持ち球としている投手が多い
・救援投手は「空振り割合の高い球種」を持ち球としている投手が多い

 救援投手は自分の得意な球種を中心に「積極的に空振りを狙いにいくこと」を目的にしているのに対し、先発投手は幅広い球速帯や多くの球種を組み合わせて的を絞らせず「長いイニングを投げ抜くこと」を目標としていることが分かる。

 つまり持ち球から探る先発投手の適性とは、「幅広い球速の球種を、多く扱える能力」といえるだろう。それらの能力に加え、救援投手のような空振りを奪う能力も併せ持つ投手こそが一流の先発投手なのかもしれない。

 過酷なメジャーで戦い抜くため、日本人投手も工夫を重ねてきた。ダルビッシュは年々細かく球質を変化させ、スライダーやカットボールの改良を重ねている。田中や前田も、決め球でさえモデルチェンジに挑戦している。
 
 メジャーで活躍できるのは、ボールそのものだけでなく環境に適応するために変化できる能力をもつ選手なのかもしれない。

(文:森本崚太/Baseball Geeks)

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著者プロフィール

株式会社ネクストベースが運営する最先端の野球データ分析サイト。「ボールがノビるって何?」「フライボール革命って日本人には不可能?」など、野球の定説や常識をトラッキングデータとスポーツ科学の視点で分析・検証していきます。 "野球をもっと面白くしたい" "野球の真実を伝えたい"。これがベースボールギークスの思いです。 書籍『新時代の野球データ論 フライボール革命のメカニズム』(カンゼン)が7/16より絶賛発売中。

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