鷹詞〜たかことば〜
“覚醒”したエース・千賀滉大 1年間投げ抜くため、変えた投球フォーム
ケガ人が続出する中、首位を快走するソフトバンクをけん引しているのがエース・千賀だ 【写真は共同】
ベストメンバーを組めた試合が一体どれほどあっただろうか。それでも福岡ソフトバンクは圧倒的な強さを誇る。前半戦を終えた時点で2位・北海道日本ハムに7ゲーム差をつける独走首位で折り返してみせた。
投手では大卒2年目コンビの高橋礼と大竹耕太郎が先発陣の欠かせない存在となっている。ブルペンを見てもルーキー甲斐野央や高橋純平、椎野新らフレッシュな顔ぶれがそろう。野手では釜元豪や周東佑京、栗原陵矢の名前が挙がってくる。
まさしく結束力で戦い抜いている結果が今ここに現れている。この好循環を呼んだのはチームに本当の意味で根幹が崩れなかったからこそ、だ。だからチームは慌てずに済んだ。
オフの成果が出た「開幕戦の161キロ」
5月頃から工藤監督の口から自然とその言葉が出るようになった。
背番号41、千賀滉大が今シーズンは大黒柱としてついに覚醒した感がある。オフの頃から発言に変化があった。「今年はより強く自覚を持って臨みます」と堂々の宣言。もともと照れ屋で少し遠慮気味な性格だったが、2年連続で開幕投手に指名された際も「正直、去年はやりたくない気持ちがあったけど、今年はそういう立場にならないといけないなと思ってずっとやってきた」と瞳の奥を光らせた。後輩投手にも積極的に声を掛け、日常の姿勢を注意したこともあったし食事にも自ら誘うようになった。
ファンの度肝を抜いたのは開幕戦の1回表だ。自己最速となる161キロを2球もマークした。
「オフのトレーニングのおかげだと思います。特に昨年の12月にアメリカに行って、ダルビッシュさんからたくさんのことを学んだことは刺激になったし、自分の為になったことばかりでした」
ダルビッシュ有(カブス)は常識の概念にとらわれずに、自ら学んだことを実践するタイプだ。そこが千賀の琴線に触れた。「やってみないで批判するのはおかしい。やることが大切だと思う」。
エースの自覚と覚悟を胸に
「日本人のピッチャーって肘を起点として投げるピッチャーがすごく多い。僕もそうでしたが、肘から投げましょうと教えられて育ってきました。だけど、それじゃ良い球はなかなか投げられない。質も良くない真っすぐだと感じていました。アメリカの良い投手や、日本だったら楽天の則本(昂大)さんの一流の真っすぐの投げ方を参考にしました。則本さんにもアドバイスをもらいました。要するに、体でどれだけ放るかを意識しました。肘を使わずにどれだけ体の中心で投げるか、それを僕の中で求めています。今年は投げた後の肩や肘の張り具合も違うし、試合後半の感じも違っています」
千賀の課題は故障の多さだった。1年間ローテを守り抜くためには何が必要なのかと自問自答し、行き着いた答えがそれだった。
前半戦を終えた段階で15試合9勝2敗、防御率1.97。抜群の安定感、8割超の勝率、そしてリーグダントツの138奪三振が何より光る。奪三振率11.83は先発としては異例の高さだ。
今季から、児童虐待の防止に取り組む「オレンジリボン運動」支援の一環として、奪三振1個につき1万円を「NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク」に寄付する活動を始めている。また、同活動のシンボルマークをグラブに刺しゅうして毎登板に臨んでいる。
「まだ、周りからのなかなか反響がありませんね」
エースとしての自覚を持ち、チームの優勝のために右腕を振り抜く千賀。今はプロのスポーツマンとして、社会の為にも自分の身を捧げる覚悟を持ってマウンドに上がる。球界を代表するにふさわしい投手に、今年の彼はなった。
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