客席でも速さがわかる甲斐野央の剛速球 夢の166キロ、そして令和初の新人王へ

田尻耕太郎

開幕戦で昨年のMVP山川を3球三振に仕留める衝撃デビューを果たし、その後も鷹のブルペンを支える甲斐野 【写真は共同】

 最速159キロ。その右腕から放たれる剛速球は、たとえ客席から眺めていたとしても周りの投手よりも速いのが分かる。

「やっぱり球速に拘りはあります。いつか160キロを出したいし、もっと出るところまで。(日本人最速の)166キロだって」

 昨年12月、ドラフト1位ルーキーの甲斐野央は新入団発表を終えた直後、そのように夢を語っていた。大台突破はまだ現実とはなっていないが、活躍度ではすでに十分過ぎるインパクトをファンに与えている。

印象を逆手に山川を手玉に

 圧巻のデビュー戦白星。その後も快投は続き、ついにはプロ野球新記録を樹立した。まずは衝撃の「3・29」を振り返る。ただでさえ緊張感のある開幕戦。しかも同点で延長戦に突入した10回表からの登板だった。対峙(たいじ)するのは埼玉西武・山賊打線の中核にドカッと座る4番打者の山川穂高。加えて、山川は前の打席で同点満塁本塁打を放っており、気分を良くして打席を迎えるところだった。
 しかし甲斐野はその強打者を、いとも簡単に3球三振で片づけたのだ。なんとフォーク、フォークで簡単に追い込んで、勝負球もストンと落とした。このクレバーとも言える配球には驚いた。甲斐野といえばストレートという印象を逆手にとって、球界屈指のスラッガーを完全に手玉に取ったのである。
「甲斐(拓也)さんのリードを信じて投げただけです。3球目は首を振って、自分で選択しましたけど。悔いなく、その時のベストを尽くしたいという思いだけでマウンドに上がっています」

 チームの先輩投手が言う。
「アイツは普段明るくてニコニコしているけど、ブルペンで出番が近づくと人が変わったような表情になる。鬼の形相ですよ」

 甲斐野はシーズンを迎えるまでのオープン戦は決して好調ではなかった。防御率8.53。最終登板では頭部死球を与えてしまい危険球退場にもなっていた。
「オープン戦の時、自分の中で準備が甘かったというか、どこか納得をしないまま不安を抱えた状態でマウンドに上がっていたんです。そこをすごく反省しました。登板する時には不安を残してはいけない。1つも、1ミリも。ちゃんとやるべきことやったと言える準備をブルペンでしておかないといけないと思い、シーズンに入ってからはそれを実践するように心がけています」

「抑えればチームは勝てるかも」

幸先よく初登板初勝利をマークすると、デビューからの連続無失点を12試合まで伸ばしている 【写真は共同】

 投手のボールには不思議と魂が乗り移るものだ。4月25日のオリックス戦(ヤフオクドーム)でも好投。今季11試合目の登板も零封した。これがドラフト制後の新人投手のデビュー連続試合無失点のプロ野球記録樹立となった。

「僕は中継ぎ投手なので自分で点を取ることはできないし、僕が投げただけでチームを勝たせることはできない。でも、ゼロで抑えればチームは勝てるかもしれない。(記録達成の試合が)本当に勝ち試合(3対0で勝利、明石健志のサヨナラ弾)でよかった」

 平成ラストに球史に名を刻んだルーキーは令和最初の新人王へひたすら投げる。ホークスに勝利をもたらす快投はもちろん、夢のスピードボールでファンをワクワクさせてくれる毎日が来るのも非常に楽しみだ。
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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