連載:日本バスケの歴史を変える男の物語

八村塁の指名順位はどうなる? 日本バスケの歴史が変わるNBAドラフト

丹羽政善
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実現しなかったシアトルでの始球式

昨年12月のワシントン大戦、八村は残り0.6秒で決勝点をマーク。ゴンザガ大のホームアリーナは歓喜に沸いた 【Getty Images】

 昨年12月5日のワシントン大戦。八村塁(ゴンザガ大)は、残り3秒を切ってボールを手にすると、振り向きざま決勝シュートを決めた。残り時間は0.6秒を示していた。

 ゴンザガ大のホームアリーナ、通称ザ・ケンネルにはそのとき、蜂の巣をつついたような騒ぎになったが、その歓喜に沸く客席の中に、ゴンザガ大野球部出身で、今年のマリナーズの開幕投手を務めたマルコ・ゴンザレスもいた。2月のキャンプが始まってから雑談をしていると、話の流れで同じ場所に居合わせたことを知ったが、そのとき彼はもう一つ教えてくれた。

「実はあの次の日、塁に会ったんだ」

 長々といろんな話をしたわけではなかったそうだが、こう続けた。

「実に好青年。彼がいることで、今年のNCAAトーナメントは楽しいものになりそうだ」

 残念ながらそのトーナメントでゴンザガ大は、4強(ファイナル4)を前にして敗退。八村は大粒の涙を流した。

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 トーナメントが終わって少ししてから、マリナーズのクラブハウスでゴンザレスに話しかけられた。

「塁は、ドラフトにエントリーすることに決めたのか?」

 その時点では発表されていなかったが、やがて、八村はそのことを公にしている。

「トップ10で指名されるんじゃないか?」

 ゴンザレスも、八村の決断を理解した。

「彼が大学に残ったら、俺達は来年のシーズンも楽しめる。でももう、“そのとき”なんだろうな」

 八村が高校を卒業するとき、日本にはもう彼が収まるような器がなかった。同様に米大学バスケ界でさえ、窮屈になっていた。ゴンザレスもそれを感じ取っていたようだ。
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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