サニブラウンは「9秒91も射程圏」 伊東浩司氏が語る進化の可能性

折山淑美

再び動き出した短距離界の時計

20年間止まっていた日本短距離の記録だが、桐生に続いてサニブラウンも9秒台を出したことで大きく動き出した 【写真は共同】

 短期間で追い風参考を含めて9秒台を連発したサニブラウンの走りを見ていると、普通に走れば9秒9台後半はコンスタントに出る状態だ。それは布勢スプリントで10秒0台を連発した桐生も同じだ。伊東氏は「ハキームが生まれる前が私たちの年代なので、20年止まっていた時を大きく動かしている感じですね。2人(サニブラウン、桐生)や山縣(亮太、セイコー)の走りを見ていると、9秒台後半は普通に出る下地がもう完全に出来上がっている状態だと思います」と話す。

「全米大学の決勝を見れば、すべてが同等と言えるまでのレベルではないが、世界大会の準決勝に近いくらいのレベルではあると思います。そういう中で自分の思い通りのレースができなくても9秒97で走っているということは、これからの世界選手権や五輪での高いラウンドへ向けても、彼の大きな財産になると思います。もし前の2人がいなくて後ろにいる同じくらいのメンバーだけだったらもう少し良い記録で走れていたと思う。その点ではもうアジア記録の9秒91(中国の蘇炳添、カタールのフェミセウン・オグノデ)も射程圏内に入ってきていると思います。もっとノビノビ走れるところだったらそのくらいはいける。それが日本選手権だとも思いますね」(伊東)

 9秒97を出した日も、4×100メートルリレーを走ってから100メートルを走り、そのあとに200メートルで20秒08を出すというタイトなスケジュールだった。それが米国の自然な流れなのだろう。「日本なら時間が短いとかケガをするのではと思うだろうが、彼の場合はもう向こうのスポーツ文化や行動に合わせてやっているだけのような感じになっていると思う」と伊東氏は言う。そういう面でも肉体だけではなく、精神的にもタフになっているのだ。

 もともとプレッシャーを感じることなくノビノビと走っていたサニブラウンだが、さらに大きな武器を身に付けて日本男子スプリントをけん引し始めた。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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