湘南ベルマーレ・秋元陽太、母と2人で…忘れられないフランスW杯の刺激

原田大輔

シャイな少年が出会ったサッカー

湘南ベルマーレの精神的支柱としてチームを鼓舞する秋元陽太。幼いころはシャイだったという 【佐野美樹】

 何かを決断するとき、人に言われて決めるのではなく、自分の意思で決めたのであれば、きっと後悔することはないだろう。たとえ、それが幼かったとしても、だ。

 だから、まずは判断材料となる本物を知り、見せる必要があると母親は考えた。そして、息子の決意が揺るがないと感じたからこそ、誰よりも信じ続けることができたのだろう。

「試合を見ているあの子の顔がグーッと変わっていくのが見て取れたんですよね。いつもはどちらかと言えば、ボーッとしているのに、あのときは瞳孔が開いて、試合を見入っているのが分かったんです」

 湘南ベルマーレのGK秋元陽太に、その瞬間が訪れたのは小学5年生のときだった。「シャイな子どもだったんです」と、母・規子さんは振り返る。
「幼いときから情操教育をしようと、音楽教室に通わせていたんですけど、陽太は1年間で一回も、私のそばから離れなくて。陽太の兄は、みんなの前で歌っていたんですけど、陽太は楽器もたたかなければ、全く歌わない(笑)。それもあって、情操教育は諦めなければいけないかなって思っていたんですよね」

 秋元が幼稚園のときだ。そのタイミングで近所に住む知人から、「うちの子と一緒にサッカーに通わせないか」と、持ちかけられた。

「幼稚園でもサッカー大会があって、陽太は身体も大きかったから、周りの子どもよりもたくさんボールに触れていたんですよね。それに、聞けばそのチームは、バスで送り迎えしてくれるという。あの子も最初はサッカーをするよりも、バスに乗って通えるのが楽しかったみたいで。私も送り迎えをしてくれるのが楽だったので、そこに味をしめたんです」

 そう言って、規子さんは笑う。秋元からも「底抜けに明るい」とは聞いていたが、「送り迎えがなかったら、あの子はサッカーに出会っていなかったかもしれません」と、きっぱり言い切る姿に、こちらも爆笑してしまった。

GKになることを反対した親心

もともとFWだった秋元がGKをやったのは小学2年。その契機がなれば湘南の守護神になることもなかった 【佐野美樹】

 今度は秋元本人が、幼少期を振り返る。

「最初は僕、FWだったんですよ。年上と一緒でも怖がることなくドリブルして、普通に抜くことができていたので楽しかったんです。GKになったのは小学2年生のとき。ある試合でPK戦になって、コーチが『誰かGKをやりたいヤツはいるか?』って言うから、手を挙げたんです。それで自分が相手のシュートを止めて勝ったのがうれしくて。そこからコーチにも、『GKをやったらどうか』と勧められたんです。だから、GKになったのは、本当にたまたま。でも、通っていたCYDフットボールクラブは、当時からGKコーチがいて、GKとしての基礎を教わることができた。そこも楽しかったところのひとつ。ただ……母親には、GKをやることは反対されていたんですけどね(苦笑)」

 湘南のサポーターは、その「たまたま」に感謝していることだろう。一方で、規子さんに反対していた理由を聞けば、その親心は心底、理解できる。

「陽太が本格的にGKをやり出したのは小学3年生になってから。そのPK戦があってから、コーチには『陽太くんはGKが向いていると思います』って言われていたんですけど、私は『絶対に嫌です』って答えていたんですよね。だってGKは、勝ったら当たり前で、負けたら自分のせいというポジション。だから、GKはチームが勝っても、称賛される機会はほとんどないですよね。それなのに負ければ自分のせいみたいに言われることもある。だったらFWのまま、得点を決めていたほうが、ずっといいですよね」

 そう力説してくれた規子さんだが、サッカーの練習や試合には、ほとんど足を運ばなかったというか、運べなかった。

「実は、私自身が病弱だったんです。身体が弱かったから、子どもの夢を考えることでしか生きていけなくて。それもあって児童心理の勉強をしていたんですけど、そのときに10〜14歳の間に“本物”を見せると、脳が大きく刺激されるということを知ったんです」

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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