連載:没後25年…アイルトン・セナの追憶

没後25年も色あせない記録の数々 世界を魅了したアイルトン・セナとは?

田口浩次

バラエティ番組がセナ人気を盛り上げた

セナと並ぶ65回目のポールポジションを獲得。記念にセナ本人が使用したヘルメットを受け取り感動するハミルトン 【Getty Images】

 アイルトン・セナが世界中のF1に憧れる子どもたちに影響を与えたのは、単純に走りだけではない。じつはセナ自身が、F1ドライバーとしてワールドチャンピオンに上り詰めた後も、積極的に子どもたちに対してモータースポーツの登竜門と言えるカートの素晴らしさを伝える努力をしていた。子どもたちへの気持ちがあったからこそ、その走りが、世界中を魅了したとも言える。そして、その気持ちの片鱗は、なんと日本に残っていた。セナが日本のF1ファンや子どもたちに向けて、カートの素晴らしさを語っていたのは、91年10月から01年3月まで、日本テレビ系列で放送されていた『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』というお笑いバラエティ番組であった。

 少し話が現代に戻るが、18年4月よりフジテレビ系列で放送されている『石橋貴明のたいむとんねる』というトークバラエティー番組がある。19年2月18日に放送された「石橋貴明が独断と偏見で選んだ平成のスポーツ名場面ベスト10」という放送回において、セナとの思い出が語られた。石橋が第8位として選んだ名場面は93年モナコGP。セナが5年連続でモナコ優勝(通算では最多の6勝)を飾ったレースで、石橋本人が、現地取材ゲストとして観戦していたのだ。

 とんねるずの石橋貴明として、93年のモナコGPを訪れたのは、ただ人気芸人だったから、という訳ではない。じつは当時、石橋自身の発案企画でモータースポーツ、とくにカートの世界に多大な貢献をしていた。そして、このつながりが奇跡の共演を生む。それこそが『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』であり、この番組内で、石橋は「アイルトン・タカ」と称して、アイルトン・セナに扮した格好で芸能人たちとカートレースをするコーナーをスタート。この企画が人気爆発して、どんどん企画規模がステップアップ。本物のレーシングドライバーだけでなく、F1ドライバーの鈴木亜久里や中嶋悟と戦い、ついにはセナ本人が出場するにまで至ったのだ。

子どもたちへ伝えたかったメッセージ

 アイルトン・セナが、日本のバラエティー番組に出場し、最初で最後の出演となったのは、93年12月29日の年末特番としての放送回だった。この番組に出演したセナは、石橋や定岡正二らとカートで戦い、反則負けという形で石橋に華を持たせた。そしてコーナーの最後に、皆さんに重要なメッセージがあると言い、カートの素晴らしさを語ったのだ。

「ゴーカートは、子供が運転を学ぶのに最高の学校です。安全で、健康的で、競争の精神と、挑戦を学ぶ、とても純粋なものです。日本ではゴーカート人気が高まっているので、若い才能ある子が、いつか将来F1ワールドチャンピオンになることでしょう」

 このセナの言葉から25年、まだ日本人F1ワールドチャンピオンは生まれていないが、その間に世界三大レースの「インディ500」と「ル・マン24時間レース」では日本人勝者が誕生した。望むならば、本当に近い将来に、世界三大レース最後の「モナコGP」と、その先に日本人初F1ワールドチャンピオンが誕生する姿を、ブラジルは、サンパウロに眠るセナの墓前に届けたいものだ。

 本連載では、セナのレース人生や、最後のサンマリノGPの舞台裏、セナを知る人々からの「今だから語れること」など、深くセナを掘り下げているので、ぜひ読んでいただきたい。

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