「門番」Hondaに歴史的初勝利 理想から結果へ、今治の転身
今季の今治が昇格するために必要な勝ち点は?
夢スタに集まった今治サポーター。今年からホームとアウェーが逆になったので少し不思議な感じ 【宇都宮徹壱】
今治について語る前に、今季のJFLについておさらいしておこう。昨シーズン3位のヴァンラーレ八戸がJ3に昇格し、最下位のコバルトーレ女川が地域リーグに降格。そして地域CL(チャンピオンズリーグ)を勝ち上がった、松江シティFCと鈴鹿アンリミテッドがJFLの仲間入りを果たした。今季も16チームによる30節で開催されるJFLだが、レギュレーションに大きな変更があった。14年から5シーズンにわたって実施されてきた、2ステージ制+チャンピオンシップが、今季から廃止されることとなったのである。
開幕前、岡田武史会長にインタビュー取材した際に、レギュレーション変更についての見解を聞いてみた。すると「僕はそのほうがいいと思う。ファーストステージで優勝を目指して、ダメだったらセカンドステージ優勝か通年で4位以内というのはね、どうしても心が揺れてしまってよろしくない」と、苦笑交じりの答えが返ってきた。いずれにせよ今季の今治は、シーズンを通してJ3昇格の条件である「4位以内」を目指すことになる。では具体的に、どれだけ勝ち点を積み上げればよいのだろうか。
16チームで行われた過去4シーズンのJFL4位の勝ち点は、60(15年)、59(16年)、55(17年)、52(18年)となっている。もうひとつ参考になりそうなのが、4位の敗戦の数。こちらは6敗(15年)、5敗(16年)、7敗(17年)、10敗(18年)だった。もっとも、昨シーズンはHonda FCがあまりにも強すぎたため(勝ち点79で敗戦はわずか1)、あまり参考にならないかもしれない。そうして考えると、今季の今治は勝ち点で60以上を積み重ね、敗戦を5試合以内に抑えれば4位以内が見えてくるだろう。
理想主義から現実路線へと舵を切った今治
ホーム開幕戦での今治のスタメン。今季は元Jリーガーが8人を占め、平均年齢も4歳近く上がった 【宇都宮徹壱】
キックオフ1時間前、配布されたメンバー表をさっそくチェック。今治のホーム開幕戦は毎年取材しているが、今年と去年のスターティングイレブンを比較すると、さまざまな変化を確認できる。去年に続いてスタメンに名を連ねたのは、キャプテンを拝命した太田康介、楠美圭史、山田貴文、有間潤の4人のみ。前所属がJクラブの選手は、昨年が太田と玉城峻吾(いずれもツエーゲン金沢)と楠美(東京ヴェルディ)の3人だったが、今年は8人に増加。そして平均年齢は、昨年の25.9歳から今年は29.7歳と、一気に4歳近く跳ね上がった。
すでにニュースでご存じの通り、今オフの今治は積極的な補強策に打って出た。元日本代表の駒野友一と橋本英郎、そしてFWの内村圭宏やDFの園田拓也やGKの修行智仁といった元Jリーガーが加入。これまでの今治は、チームコンセプトに見合った若い選手を集めてきたが、今季は「ある程度の戦力を整えないと厳しい」という岡田会長の意向が反映された陣容となった。目標は、あくまでも昇格。そのための戦力が増強される一方、これまでのスタイルの封印はやむなしという覚悟も透けて見える。
理想主義から現実路線へと舵を切った今治にとり、このHondaとの対戦は「昇格のための試金石」と位置づけられている。今季から指揮を執る小野剛監督も「プレシーズンからずっと『Hondaに勝たなければ』という思いでやってきた」と言い切る。上を目指すチームに対し、これまで「門番」として立ちはだかってきたHonda。実は昨年の八戸のみならず、アスルクラロ沼津や鹿児島ユナイテッドFCも、昇格した年はHondaに負け越している。今治も過去2シーズン、一度もHondaには勝てていない。しかし、だからこそ「門番」を打倒した先に、J3昇格がある──。それが、3年目のJFLを迎えた今治が出した結論であった。