FC今治がJ3昇格を逃した要因 岡田会長が昨シーズンに痛感したこと

宇都宮徹壱

JFLの2019年シーズン開幕10日前、岡田会長に昨季を振り返ってもらった 【宇都宮徹壱】

 3月17日、第21回日本フットボールリーグ(JFL)が開幕した。昨シーズン、昇格の条件である4位から3ポイント差の5位に終わったFC今治は、3シーズン目のJFLを迎える。クラブが現在の体制となってから5シーズン目。当初の予定では、今頃はJリーグにいるはずだっただけに、現場もフロントも昨年以上に「昇格はマスト」という不退転の気持ちでいることだろう。

 開幕を10日前に控えた今月7日、今治の岡田武史会長にインタビューする機会を得た。気がつけば夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)での最終節を取材してから、すでに4カ月が経過していた。そんなわけで岡田会長には、聞きたいことが山ほどあった。吉武博文監督の解任に至った経緯、後任に工藤直人コーチを昇格させた理由、そしてリーグ終盤の6連勝と昇格の夢が絶たれた最終節で感じたこと、などなど。インタビューの前編では、岡田会長に昨シーズンに振り返ってもらいながら、昇格を逃した要因についても総括してもらった。

昇格を逃すも、スポンサーからは想定外の反応

――JFL開幕まで、あと10日となりました。今日もこれから今治に向かうわけですが、今季は岡田さんとしてどのあたりに力点を置いているのか教えてください。

 現場は(新監督の)小野剛に任せていることもあって、僕はほとんど見ていないんです。僕の中で今、ものすごく大きいのが、新しいスタジアム。そのために資金を集めないといけないし、今年は何とか経営を黒字に持っていかないといけない。実は去年、中国とのビジネスがうまくいかないことがあって、赤字予算を立てざるを得なかったんだけれど、それを何とか黒字に持っていきたい。幸い、予想していた以上にスポンサーさんが集まって、黒字まであと一息といったところですね。

――今年の予算は、どれくらいを見込んでいますか? 去年が確か7億円弱だったかと。

 去年は6億円強で、今年は7億円強くらいです。1億円弱増えますね。スタッフも少し増やす予定です。

――なるほど。去年も今年も「昇格がマスト」という状況に変わりはないと思いますが、クラブを巡る状況に違いもあったのではないかと思います。いかがでしょうか?

 全然違いますね。去年は「J3に上がらないと、スポンサーさんに逃げられるんじゃないか」とずっと思っていた。ところが実際には、四国リーグ時代から応援していただいている地元スポンサーさんも、あるいは東京に本社がある大手スポンサーさんも残ってくれたんです。それだけではない。今までは「上がってくれよ」だったのが、今年は当事者として「一緒に上がるぞ」と。あるいは「スポンサー料を増やすから、いい選手を獲ってくれ」とも言っていただきましたね。

──スポンサーさんからすると、去年の補強に不満もあったんでしょうか?

 JFL1年目の17年は、吉武の考える編成にはできなかったので、18年については「補強については一切口出ししないから思い通りにやれ。その代わり、結果が伴わなかったらアウトだぞ」と言いました。思い通りにできないままアウトになったら、それは本人にとっても納得できないだろうと。だから吉武が納得できる戦力で、昇格という結果を残すことができれば一番良かったのですが。

吉武監督の解任に至った経緯

昨シーズン途中の吉武監督(左)の解任は苦渋の決断だった 【宇都宮徹壱】

――残念ながら吉武さんは結果を残すことができず、事実上の解任となってしまいます。最後に指揮を執ったのが、6月24日のホームでのラインメール青森戦(2−3)。監督交代が発表されるのは、この3日後でした。ちょうど岡田さんはワールドカップロシア大会の日本対セネガルの解説でエカテリンブルクにいらした時でした。

 もちろん、解説の仕事はきちんとやりましたよ(苦笑)。

――岡田さんが(解任を)決断されたのは、24日の試合を受けてだったんでしょうか。

 そうだったと思います。ただ吉武に対しては、その前に「次が最後(のチャンス)だぞ」と伝えていました。今治では一緒に暮らしていたんでね。それで(試合結果を受けて)本人には電話で「残念だけど、アウトだ」と伝えました。

――吉武さんとは、それこそチーム立ち上げの時から二人三脚でやってきただけに、岡田さんとしては苦渋の決断だったと思いますが。

 もちろんそうです。最後までやらせたいという思いはありましたけれど、そのままズルズルと負け続けていたらスポンサーさんが離れてしまって、ひょっとしたら(シーズン終了後に)スタッフを切らなければならない状況になっていたかもしれない。僕と吉武の関係で済む話ならいいですが、50人ほどのスタッフとその家族に対する責任というものがありますから。やはりクラブの経営者として、重い決断をしなければならない瞬間というものは、常にあると思っています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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