「門番」Hondaに歴史的初勝利  理想から結果へ、今治の転身

宇都宮徹壱

JFL3年目にして「門番」から勝ち点3

今治の追加点は後半13分。内村がドリブルでゴール前まで持ち込み、最後は有間が左足で押し込んだ 【宇都宮徹壱】

 13時キックオフの試合は、開幕節をどちらもドローで終えているためか、序盤は手堅いサッカーに終始した。この日、左サイドバックで起用されている駒野も、積極的に攻撃に加わるのは前半の15分を過ぎてから。19分には、その駒野のクロスに内村がクサビに入り、最後は有間が惜しいシュートを放つ。その後はHondaがボールを握る時間帯が続き、26番のFW遠野大弥が貪欲にゴールを狙うも、今治の守備には安定感があった。

 一方で気になったのが、守りから攻撃に転じる場面。これまでは前線の選手が自陣まで下がり、ボールを受けてから細かいパスワークで崩していくパターンが多かった。しかしこの日の今治は、中盤の選手がドリブルで持ち込むか、両ワイドからクロスを供給するシーンがほとんど。そんな中、ゲームは意外な形で動く。前半36分、今治は左からのCKを駒野が蹴り込むと、これを相手DF川嶋正之がクリアミスして、ボールはそのままゴールに収まる。オウンゴールとはいえ、今治は初めてHondaから先制点を奪った。

 エンドが替わった後半13分、今治が追加点を挙げる。原田亘からペナルティーエリア内の内村に縦パス。いったんは相手DFにクリアされそうになるも、内村が巧みに奪い返すと一気にドリブルでゴール前に突進する。そしてシュート阻止を試みる相手GKをかわし、最後は有間が左足で押し込んでネットを揺らした。「僕がどうこうでなく、内村選手のおかげ」と謙遜する有間だが、得点の匂いがする場所にしっかりポジションをとっていたことは、十分評価に値する。

 後半21分、内村が相手DFと衝突して負傷退場すると、ベンチは満を持して橋本を投入。その1分後、Hondaは佐々木俊輝のゴールで1点差に詰め寄る。逆転に持ち込むだけの時間はあったが、ここで見事な働きを見せたのが経験豊かな39歳のベテランだった。小野監督から橋本へのリクエストは「どこでボールを奪うか、どこまでなら相手に持たせていいか、全体のゲームのコントロールをしてくれ」。しかし直後に失点したため、トップ下のポジションにこだわることなく、橋本はクローザーとしての役割に徹する働きを見せた。

 その後、今治のベンチは後半36分に原田、43分に上原拓郎を下げて、金子雄祐と飯泉涼矢をピッチに送り出す。いずれも中盤両ワイドの選手だが、指揮官いわく「相当な運動量が求められていたので、ある程度のところでバドンタッチを考えていた」。終盤はHondaが猛攻を見せるも、今治は的確なラインコントロールとフレッシュな両サイドがしっかり対応。5分間のアディショナルタイムも耐え忍び、2−1のままタイムアップとなった。JFL3年目にして「門番」から勝ち点3。夢スタのスタンドは大きな歓喜に包まれた。

Hondaの指揮官が「首をかしげるゲーム」と語った理由

JFL3年目で初めて「門番」Honda FCに勝利した今治。理想よりも結果重視のサッカーは今後も続くか? 【宇都宮徹壱】

 試合後の会見。今治の小野監督は、記者から勝因を問われると「ひとつに絞るのは難しいですが」と前置きした上で、こう続けた。まず守備については「意図的にボールを奪いに行き、ディフェンスも点を取る手段」とすること。攻撃については「ボールの移動中にアクションを起こし、相手の嫌なところに走る」こと。そして「メンタリティー(の強さ)と身体を張る」こと。これらに付け加えるならば、小野監督が得意とする緻密なスカウティングも、少なからず勝利に貢献したと思われる。

 小野監督のコメントそのものには、はっきり言って新味は感じられない。しかしながら、Hondaの井幡博康監督のコメントと突き合わせると、興味深い事実が浮かび上がってくる。就任6年目の指揮官は、初めて今治に敗れたこの試合が、過去2シーズンと比べて「一番勝てる確率があっただけに、自分としては首をかしげるゲームだった」と納得できない様子。消化不良な内容に終わった理由について、以下の見解を示した。

「今治と試合ができるのは、いつも楽しかった。それ(今治のスタイル)をJに上がっても貫いてほしいとも思っていました。昇格したいチームは結果を求めますが、僕らはそれがないから魅力(あるサッカー)を目指したい。あくまで理想ではありますが、魅力と結果をイコールにしていきたい。まあ、シーズンが終わった時にチャンピオンになっていればいい話ですので、次の都田(でのホームゲーム)は倍返ししますよ(笑)」

 これまでJFLからJに昇格した、幾多のチームを見送ってきた「門番」Honda。そんな彼らにとり、あくまでポゼッションにこだわる今治の出現は衝撃的だったに違いない。それは初対戦となった17年が、2試合ともドローに終わったことからも明らかだ。しかし2年目の18年は、アウエーで4−1、ホームで1−0と完勝。ポゼッション対策を講じてしまえば、プランBを出せない今治は意外とやりやすい相手であった。それだけに、あくまで結果にこだわるサッカーに徹した今季の今治は、Hondaにとって2年前とは違った意味での衝撃となった。

 かくして、今季2試合目で初勝利を挙げた今治は、10位から一気に順位を5位に上げた。しかしそれ以上に重要なのは、これまで勝ち点を献上し続けてきたHondaから、初めて勝ち点3を獲得したことである。今治の次の相手は、2連勝で首位に立つソニー仙台とのアウェー戦。これも引き分け以上に持ち込めれば、強豪3チームに負けなしでスタートダッシュを切ることができる。まだシーズンは始まったばかり。それでもホーム開幕でのHonda戦勝利は、今季の今治の戦いを考える上で、極めて重要な意味を持つ結果となった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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