人事や補強に感じる岡田会長の覚悟 FC今治、「マスト」の昇格を果たすために

宇都宮徹壱

今季から監督を務める小野剛氏。岡田オーナーとの付き合いは長い 【宇都宮徹壱】

 3月17日、第21回日本フットボールリーグ(JFL)が開幕した。今季こそJ3昇格を目指すFC今治は、昨シーズン2位のFC大阪とアウェーで対戦し、スコアレスドローに終わった。24日のホーム開幕戦では昨シーズンのチャンピオンであるHonda FCを迎え、さらに翌週には4位の座を譲らなかったソニー仙台FCとのアウェー戦が控えている。今治にとって序盤の3試合は、どれも気の抜けない緊迫したゲームとなることは間違いないだろう。

 2年連続で足踏みが続いただけに、岡田武史会長もJFLの厳しさを骨身に染みて実感したはず。それは現場の人事を見れば明らかだ。監督には、日本代表監督時代からの腹心であり、サンフレッチェ広島やロアッソ熊本での監督経験のある小野剛氏を抜てき。ヘッドコーチには、前監督の工藤直人氏を据えた。また新加入選手には、駒野友一、橋本英郎、内村圭宏といった、代表やJ1で実績のあるベテラン選手を積極的に補強している。

 インタビューの後編では、監督やフロントの人事からはじまり、あえてベテランを獲得した意図、さらにはレギュレーションが変更となった今季のJFLの展望についても、岡田会長に語っていただいた。またインタビューの最後には「J3昇格のために何が必要なのか」について、勝負師としての一面をのぞかせるコメントを残している。24日のホーム開幕を前に、岡田会長の覚悟を行間から読み取っていただければ幸いだ。

2019年シーズンに向けた人事

――昨シーズン以上に「失敗が許されない」シーズンを迎えるにあたり、岡田さんが最初に着手したのが人事の刷新だったと思います。その意味で、監督に育成を統括していた小野さんを抜てきしたのは、ちょっと驚きでした。

 実はJ3に昇格していたら、外部から監督を呼ぶことを決めていたんですよ。結果としてその線がなくなって、昇格のことを考えると、チーム事情が分かっていて、メソッドにも理解がある内部昇格ということになる。いくつか選択肢がある中で、小野に話をしたら「ぜひチャレンジしたい」と言ってくれました。

──秘めたる思いはあったんでしょうね。そして前監督の工藤直人さんは、今季はヘッドコーチに就任するわけですが、こちらの人事については?

 これは小野から「絶対に工藤は残してほしい」と言われたからです。去年までの流れを知っているし、優秀だし。実は工藤には今年、(指導者の)S級ライセンスを取らせたかったんだけれど、今季に関してはどうしても彼の力が必要なので。

――なるほど。一方で気になったのが、今季のフロントスタッフに高司裕也さん(前オプティマイゼーション事業本部長)の名前がなかったことです。もしかして責任を感じてお辞めになったのでしょうか?

 全然違います(苦笑)。高司はクラブに残る前提で、来季に向けた補強から何から、すべてに関わってくれました。ただ彼の奥さんがスペインの人で、向こうでお子さんと暮らしていたんですが、いつまでもこっちに単身赴任というわけにはいかなかったので……。

──え、ずっと単身赴任だったんですか? それは知りませんでした! 気になってSNSで確認したら、今はバルセロナにいらっしゃるみたいですね。

 そうそう。年に数回はこちらに戻ってくる契約で、それ以外にもアドバイザーとして仕事をしてもらうことになっています。それでも彼がいなくなると、こちらもいろいろ困ることが少なくないのは事実です。

――それと吉武博文さんは、JFAに戻られてアカデミー福島で指導されているそうですね?

 そうなんです。(田嶋幸三)会長がどうしても吉武に来てもらいたかったみたいで、直接電話があって決めたみたいです。

上のカテゴリーからオファーを受けた選手たち

昨シーズン主力として活躍した小野田(写真)らにはJクラブからオファーが舞い込んだ 【宇都宮徹壱】

――新加入選手について語っていただく前に、昨シーズン限りでチームを去る選手についてうかがいたいと思います。現役引退したキャプテンの金井龍生を含めて10人。かなり大幅な選手の入れ替えとなった理由を教えてください。

 やはり昇格できなかったことが大きかったですね。J3に上がっていたら、それほど大きく選手は入れ替えないつもりでした。(J3は)レベル的にJFLとそんなに大きくは違わないだろうし、選手にお客さんが付くようにもなっていました。これはクラブにとって非常に大きなことだったんですが、残念ながらああいう状況になってしまって。

──そうこうする中、上のカテゴリーからも選手にオファーが舞い込むようになったと。

 そうです。僕は選手に対して「監督が新しくなれば戦力外になる者もいるだろうから、いいオファーがあったらそこで頑張ってほしい」ということを言いました。実際、J3クラブから3人、そしてJ1クラブから1人オファーがあったんですよ。このチャンスをしっかり生かしてほしいと思いましたね。

――三田尚希がJ3のヴァンラーレ八戸へ、小野田将人がJ1の湘南ベルマーレに引き抜かれました。2人とも、今季も十分にチームの中核となりえる選手ですが、最後は本人たちの意思を尊重したということでしょうか?

 三田については、そうですね。「年齢も考えると1年でも早くJでやりたいです」と本人から言われたら、それは仕方ないですよね。小野田については、今後の成長を考えるなら、もっと厳しいところでプレーしたほうがいいと思っていました。今治にいれば、そこそこの報酬はもらえるし、周りからスター選手扱いもされるだろうけれど成長はできない。それは長島滉大についてもそうです。

──長島は去年、ポルトガルのポルティモネンセに期限付き移籍して、最近トップチームに昇格したそうですね。こちらも今後が楽しみです。

 小野田も長島もまだ若いし、将来の中心となる選手だったけれど、一方でウチは育てて高く売るということを考えないといけない。長島の移籍については、「今治で頑張れば、ヨーロッパへ行けるかもしれない」ということで、またいい選手が入ってくる。そういう循環を作っていかなければならないという目標もあります。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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