人事や補強に感じる岡田会長の覚悟 FC今治、「マスト」の昇格を果たすために

宇都宮徹壱

ベテランを積極補強した意図

今季は元日本代表の駒野(右)らベテランを補強した(写真は2010年) 【写真:ロイター/アフロ】

――そうした中、今季は元Jリーガーのベテランを積極的に補強しました。とりわけ日本代表のキャリアを持つ駒野と橋本の加入は、大いに話題になりましたね。

 駒野、橋本は僕が口説きました。来てもらえないだろうなと思いながらも直接電話したんです。コマちゃんは、最後までJクラブの可能性を模索していたみたいだけれど、最後は「行きます」と言ってくれましたね。ハッシーは僕の高校(大阪府立天王寺高校)の後輩だし、奥さんが今治出身というのも決め手のひとつになりましたね。

――北海道コンサドーレ札幌から加入した内村圭宏はどうでしょうか?

 内村は代理人経由で連絡がありました。いろいろと調整した結果、最終的に折り合いがついて「それならぜひ」ということになりました。

――駒野が37歳、橋本が39歳、内村が34歳。チームの平均年齢が一気に上がりますが、この点についてはいかがでしょうか?

 コマちゃんとハッシーは、シーズンを通していける可能性は十分あります。練習を見ていても、コマちゃんが一番タフですから(笑)。監督の小野も言っていました。「ちょっときつい練習をしたら、みんなすぐに休んでしまうのに、駒野はまったく休まない」ってね。内村については、札幌でもフルというわけではなかったので、そこは監督が使い方を考えてくれると思います。

――彼ら3人の加入で、チームの雰囲気もがらりと変わりそうですね。

 今季の補強に関しては経験のある即戦力、もしくは育てていける選手に絞りました。もちろん大卒で伸びる選手もいて、それも期待していますけれど、同じJのスカウトの目にとまらなかった選手でも、高卒のほうが化ける可能性が高いと思っています。実際、小野田も長島もそうでしたからね。ですからベテランの3人だけでなく、今年高卒で入ってくる3人についても、とても楽しみにしています。

「勝負の神様は細部に宿る」

岡田会長が挙げた昇格のポイントは「1試合、1試合で隙を見せないこと」 【宇都宮徹壱】

――早いものでJFLも3年目になります。今季もこのカテゴリーで戦うことについて、岡田さんなりにポジティブにとらえるとしたら、どのあたりでしょうか?

 一番はやはり、今治の街がひとつになったことですね。これまで以上に熱のこもった支援をいただけています。今季はチケットの売れ行きも非常にいいですし。スポンサーさんについても、どこも快く引き受けていただけました。Jリーグに昇格することだけでなく、新スタジアムを作ることで今治をどうしていくのかという部分についても、大いに共感していただいているのはありがたいですね。

──今季のJFLですが、地域リーグから上がってくる松江シティFCや鈴鹿アンリミテッドFCを含めて、昨シーズン以上に油断ならない戦いが続きそうです。

 これまで戦力にあまりお金をかけなかったという話をしましたが、今季はある程度の戦力を整えないと厳しいと思っています。他のチームも元Jリーガーを積極的に補強しているし、ヴィアティン(三重)なんかは上野展裕が監督になったでしょ。あれ、これはまずいな。やっぱり去年、上がっておけばよかったかなって思うこともあります(笑)。

――今季のJFLは1ステージ制に戻って、昇格の条件となる通年で4位以内を目指すわけですけれど、このレギュレーションの変更についてはいかがでしょうか?

 僕はそのほうがいいと思う。ファーストステージで優勝を目指して、ダメだったらセカンドステージ優勝か通年で4位以内というのはね、どうしても心が揺れてしまってよろしくない(苦笑)。やっぱりシーズンを通して戦うのが一番だと思いますよ。

――新監督が決まり、戦力も整いました。昇格するには、あと何が必要でしょうか?

 1試合、1試合で隙を見せないことですね。日本代表は2010年まで、自国開催以外のワールドカップ(W杯)では一度も勝利できませんでした。(代表監督時代に)日本の過去のW杯でのピンチとチャンス、すべてのシーンを編集した映像を選手に見せたんです。「この中に戦術やシステムの問題はあるか?」と。ひとつもなかったですよ。1人の選手が、ほんの少し「これくらいで大丈夫」と思った瞬間に歴史が変わってしまう。勝負を分けるのは、そういう部分だと思っています。

 僕はいつも「勝負の神様は細部に宿る」と言っているんですが、勝敗を分けるのは戦術やシステムだけではないと思っています。今季のJFLは、実力的にはどこも五分五分ですよ。だからこそ、隙を見せないプレーというものが練習を含めて、1年を通してできるかどうか。そういう小さなことがきちんとできる文化を作っていかないといけない。そういうモラルを持つことが、一番大切なことだと思っています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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