私の生涯最高のサラブレッド 憧れの舞台で出会ったアメリカンファラオ

カズ石田 (Kaz Ishida)

これ以上のサラブレッドは今まで見たことがない

 ただ、引退レース終了時点では、ゆっくりと落ち着いてアメリカンファラオを見ることができたのは、2歳時のサンタアニタ競馬場の厩舎でのものが最後だった。

 それでも種牡馬入り後もG1勝ち馬やG1勝ち馬の母など有力な繁殖牝馬と多数交配し、産駒が高額で取り引きされるニュースも多く目にして、私はなぜか自分のことのように嬉しくなった。

 その後、ケンタッキーでヒシアマゾンとの再会を果たしたりした日々の中で、同じくケンタッキーに移り住んだアメリカンファラオと再会する機会がやってきた。アッシュフォードスタッドに連絡を取ってみると、なんと私の訪問を受け入れてくれ、撮影もさせていただけることになった。

アッシュフォードスタッド。クールモアアメリカにより運営されている。 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】

2018年2月5日、アッシュフォードスタッドにあるアメリカンファラオの馬房の前で。 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】

 2018年の2月5日、約束の時間の少し前にアッシュフォードスタッドに到着すると「よく来たね」とスタッフが温かく迎えてくれた。今からアメリカンファラオに会えるのだという興奮を抑えるように返事をして厩舎に案内されると、あのサンタアニタの厩舎で見た顔そのままのアメリカンファラオが、丹念にブラッシングをされながら、蹄には綺麗に蹄油を塗られていた。

 体のほうは現役時よりも種牡馬らしく若干サイズが大きくなっていたものの、これまでケンタッキーで見てきたどの種牡馬よりもスリムに映った。

 それから馬房から出るときの動き、脚の動かし方は大きくも小さくも、そして速くも遅くもなく、むしろ現役時よりも肉が若干ついた分、動きの一つ一つがさらに美しく見えた。

 立ち姿勢をとるときもあっという間に静止し、その姿はとにかく均整が抜群にとれていて、何をしていてもこれ以上美しい姿をした馬は見たことがなかった。

 私はこのときに確信した。
「間違いなく自分が今まで見てきた中で最高のサラブレッドだ」と。

2018年6月13日、アッシュフォードスタッドにて放牧地から厩舎へ戻るアメリカンファラオ 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】

 アッシュフォードから宿泊場所へ戻る途中の車内で私は、大袈裟でなく、
「アメリカンファラオに出会うためにこれまでの人生があったのだ。今までのいいことも悪いこともすべてこのためにあったのだ」
と本気で考えていた。そしてこの思いは現在も変わっていない。

 特に初年度は選りすぐった繁殖牝馬たちと交配されて、成功の下地は整っているとも言われている。それでも競走馬としての成功と種牡馬としての成功は別物だという例は過去に幾度もあった。

 それを承知で敢えて書きたい。
 アメリカンファラオには種牡馬としても史上屈指の存在になることを心から期待している、いや、願っている。そう、世界の競馬シーンを子孫たちが席巻したあのノーザンダンサーのように。

 あの憧れていた舞台で出会った最高のサラブレッドとその子孫の今後を見守り続けていきたいし、これを読んだ方にも『アメリカンファラオというすごい馬がいる』と覚えていただけたら幸いである。

2018年6月13日アメリカンファラオ。アッシュフォードスタッドにて。 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】

 ちなみに一般の方も、ケンタッキーの生産者や馬のクリニックが共同で運営している『Horse Country』というウェブサイトを通じてアッシュフォードスタッドを見学することが可能である。ただアメリカンファラオは一昨年と昨年はシャトルで北半球の夏期間、おおよそ6月下旬から12月中旬まではオーストラリアに行っており、今年も行くか行かないかの公式発表は間もなくの見込みであるとアッシュフォードスタッドのスタッフからうかがった。訪問前にはその点の確認もしていただければ幸いである。

 思いが強烈ということもあり所々強い表現になってしまった部分もありましたが、アメリカンファラオのことは日本の報道ではさほど大きく、多く扱われていない現状の中、世界にはすごい馬がまだたくさんいることを皆様にお伝えしたくてこの場をお借りしました。

2019年1月29日、アメリカンファラオ。 アッシュフォードスタッドにて。 【撮影:カズ石田 (Kaz Ishida)】

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著者プロフィール

京都府長岡京市出身、愛知県南知多町在住。写真家。カズ(Kaz)は米国での呼び名でこれを活動名にする。学生時代に出会った障がい者乗馬の活動に約10年間参加、そこで実際に馬の手入れなども経験。紆余曲折を経て2013年、カメラマンとしてJRAからプレスパスを貸与される。海外での撮影はアメリカ西海岸地区の競馬場が中心だったが近年は東海岸地区の競馬場、ケンタッキーの牧場にも足を運ぶ。2016年、日本人として初めて米ブリーダーズカップのオフィシャルフォトグラファーとなる。 (profile photo by Bill Mochon)

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