イチローは「期待」を裏切れるのか? 固定観念に挑む、19年目のキャンプイン

丹羽政善

問題は米国に戻ってから

日本開幕戦の出場は濃厚だが、問題は米国に戻ってから。若手中心の起用が予想される中、背番号51の勇姿はどれだけ見られるのか(写真は昨年5月2日のアスレチックス戦のもの) 【Getty Images】

 さて、ここまではきっちり、不可能を可能に変えた。フロント入りした後、45歳で現役復帰。それが前提にあったとはいえ、前例なき道を切り開いた。

 しかしおそらく、キャンプインそのものは、通過点にしか過ぎない。東京で行われるアスレチックスとの開幕戦(3月20、21日)に関しては、ジェリー・ディポトGMが、「ケガなどがなければ、ロースターに入れる」と明言している。海外で行われる試合に関しては、故障者などが出来たときに、マイナーの選手を呼び寄せるということが難しいため、28人を選手登録できる。通常は25人なので、この差もあって、イチローの登録が有力視されているのだ。

 が、問題は米国に戻ってから。マリナーズは、米国での開幕戦が行われる28日の前日までに登録選手を25人に絞らなければならない。

 改めてチームの布陣を俯瞰すると、イチローの入り込む余地はないようにも映る。チームはオフに、ロビンソン・カノ、ジーン・セグラら主力選手をことごとく放出し、若手を中心とした再建にかじを切った。今季の外野は、左翼が26歳のドミンゴ・サンタナ、中堅が25歳のマレックス・スミス、右翼が28歳のミッチ・ハニガーで臨む予定だ。外野の控えに関しては、メッツからトレードで獲得したジェイ・ブルースを一塁、指名打者と兼任で配置する見込みで、やはり、枠はない。

 1月、会見に応じたディポトGMも、「若い選手を使う。ブルースにも打席数を与えなければならない」と話し、イチローの起用に関して、直接の明言を避けた。

狂い始めたプラン、イチローの起用増?

 もっとも、そのプランはいきなり狂っている。キャンプイン前日、スミスがシーズンオフに右ひじを痛めたことが発覚。スコット・サービス監督は「2〜3週間は、守備練習を控えさせる」と話した。

 靭帯に損傷などはみられず、あくまでも筋肉の張りとのことだが、サービス監督は日頃、離脱の目安を短く見積もる傾向があるだけに、おそらく1カ月は別メニューではないか。それはすなわち、日本の開幕戦には間に合わないことを意味する。米国での開幕戦にも間に合うかどうか――。

 サービス監督は、当面の代役として若い選手をオープン戦でテストするようだが、今の段階で、メジャーで通用するという計算ができる選手はいない。となると、スミスが復帰するまでイチローを起用する、というケースは十分に考えられる。

 そもそも、キャンプは始まったばかり。シナリオ通りに行くほうが、可能性としては小さいかもしれない。

今さら復帰なんて…そんな固定観念に挑む

 それでも今、「イチローにとっては、東京が最後になるのでは」という見方が少なくない。

 キャンプ初日、元MLB.comの記者で、昨年から米経済誌「フォーブス」の電子版で健筆を振るうバリー・ブルーム記者も、米国に戻ってからロースターに残る可能性について、「チャンスは限りなく低い」と話した。そのことを早速、その日の電子版に書いていたが、情報には自信ありげだった。

 他の米メディアの記事も、明言までしなくても、“厳しいのでは”という点では一致していた。デュポトGMも、「アメリカに帰ってから決める」と相変わらず歯切れが悪い。

 ただイチローは、そんな否定的な声があることを意識してか、「期待を裏切りたいという気持ちはあります」と話した。

 今さら復帰なんて無理だ。いや、もう45歳なんだから衰えているはずだ。保守的な米球界は、なかなか異端を認めようとしない。

 そんな固定観念に、イチローは挑むつもりだ。

「安易な責任のない意見かな、そういうものを裏切りたいと思っています」

 イチローは「期待」を裏切れるのか。短いキャンプが始まった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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