イチローは「期待」を裏切れるのか? 固定観念に挑む、19年目のキャンプイン

丹羽政善

いつもの流れも「大きな記念日」

現役復帰を果たし、メジャー19年目のキャンプインを迎えたイチロー 【写真は共同】

 一瞬にして空気が変わった。

 キャンプイン前日――イチロー(マリナーズ)が身体検査を受けたあとで、室内ケージで打撃練習を行い、フィールドでキャッチボールをするのは、長年のルーティンだ。イチローがクラブハウスから出てくると、外で待っていたメディアの私語が消え、静寂に包まれる。響くのはイチローの足音だけ。やがてケージからバットの乾いた音が漏れてきた。メジャー19年目となれば、取材する側も初めてではない。それでもこの日、この瞬間は例年、独特なものがある。

 キャッチボールを始めた頃、球団がドローンを飛ばして、上空からの撮影を試みていた。そのわずかな羽音が、遠くに聞こえた。

 そこだけを切り取れば、いつもの流れ。しかしイチローは、これまでとはまるで異なる思いで、初日を迎えていたという。

「ここにいる誰もそんなことは想像していないと思うけれど、僕にとっては大きな記念日です」

孤独を相手にしてきた5カ月

“記念日”という言葉には、昨年5月3日(現地時間)に選手登録を外れてからこの日を迎えるまでの気の遠くなるような長い時間、そして長きにわたって強い気持ちを保ち続けることの難しさが凝縮されていた。あの日、「それがある(復帰の可能性)ことで明確に、遠いですけど目標を持っていられるっていうのは大きなことです」と話したが、かといって9月までの5カ月、孤独を相手にしてきたのである。

 シーズンが終わって残した「できることは全部やった。1日(が終わって)帰る時にはもうくたくたでというのは、その日の目標でしたから。それをようやく……。そこだけを見れば完遂したということになるでしょうね」と言葉には、達成感さえ漂っていた。

 もっとも、そんな境遇さえイチローは前向きに捉えていたというから、さすが。

「誰もやってきてないことに挑戦するということを、僕はいくつか結果としても残してきたことではある。誰かがやったことがあることよりは、誰もやったことがないことの方が飛び込んでいくという選択になる。それは常々してきたつもりだし、今回もその一つ。ユニークだし、特殊ではあるものの、その一つとして考えてますけれど」

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著者プロフィール

丹羽政善

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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