イチローなりの決意をにじませた会見 ユニホーム姿で登場した意味とは!?
引退会見とは逆の決意会見
現地時間3日、ユニホーム姿で会見に臨んだイチロー。言葉の端々から現役への強いこだわりを感じさせた 【写真は共同】
「(契約が)決まってから、2カ月弱ぐらいの時間でしたけど、この時間は僕の18年の中で、もっとも幸せな2カ月であったと思います」
決して大げさな表現ではなかった。イチローはその後も、球団に対する感謝の言葉を惜しまず続けている。
「3月頭の時点で、このユニホームを着られることは想像していませんでした。だから、マリナーズと契約してから今日まで、毎日が僕にとってギフトを贈られているようなもので、本当にハッピーでした。今日もそうでした。とにかくハッピーで、毎日、セーフコ・フィールドに来る家からの道のり、帰り道、ユニホームを着ていられる時間をかみ締めていました」
言葉を選びながら、ゆっくりと語ったイチロー。明るい言葉とは裏腹に、どこか感傷的。これだけを切り取れば、まるで、引退会見である。
ところが、実際は逆。むしろ、決意会見だった。
「この日が来るときは、僕はやめるときだと思ってました。その覚悟はありました」と話したイチローだが、次の言葉に、彼の本音が凝縮されていた。
「これが最後ではない、ということをお伝えする日」
人間の限界に触れてみたい欲求
ただ、そうではない――。会見では、イチローの現役へのこだわりが、言葉の端々に透けた。
例えば、引退とどう違うのか? そんな問いにはこう答えている。
「なんかあらためて決意表明するのもおかしな感じだけど、ゲームに出られないので、これが来年の春に僕が240パウンド(約109キロ)になっていたら終わりですよ、それは。その可能性は低いと思うので、そうでなければ、終わりではないと思います」
では、なぜ可能性が低いのか。イチローはこう説明する。
「僕は、野球の研究者でいたい」
自らが実験台となり、人間の限界に触れてみたい。
「自分が、今44歳で、アスリートとしてこの先、どうなっていくのかっていうのを見てみたい。それはプレーしていなかったとしても、毎日鍛錬を重ねることで、どうなれるのかということを。その興味が大きい」
そこへの強い欲求こそが、自分を駆り立てる。
もちろん今季はもう、試合には出られない。しかし、これまで通り、いや、これまで以上に体を鍛え抜く。3日の試合中、イチローは室内ケージにこもり、特性マシンでトレーニングをしていたそうだ。
「(やることは)変わってないですね。むしろ、運動量が増えている」
おそらく、モチベーションを保つ難しさを感じるのはこれから。
「新しいチャレンジであることは間違いない」
それを克服し、見事に復帰を果たすとしたら、今回の措置以上に異例だが、だからこそ、妥協したくない。悔いも残したくない。
来年の日本開幕戦の出場へ含み
今回、ロースターの関係上、イチローを外す決断を下したが、それは苦渋の選択。仮に、イチローを解雇しようとすれば、それは可能。しかし、球団の最大の功労者に対してそれは出来ない。そこで、これまで通り練習出来るように配慮し、今オフに再契約出来るような道筋をつけた。
3日、取材に応じたジェリー・デュポットGMもはっきりと口にした。
「これは決して、引退ではない」
実際、その通りになるのではないか。マイナー契約を交わし、キャンプに招待選手として参加。そこで結果を残せば、日本で行われる来年の開幕戦(3月20・21日/アスレチックス戦/東京ドーム)に出場できる。あらためて全体を俯瞰すれば、そこまでの含みが感じられる。
当面はそれでも、トレーニングを続けながら、チームメートのサポートにイチローは回る。
「ゲーム中はテレビでゲームを見ることになるので、すべての動きを見られるわけではないんですけど、でも、僕から何かを言うっていうのもおかしな感じになるので、僕の出来ることの範囲で、彼らから何か聞かれれば、もちろんそれに答えることはある」
これまでもそうだったので、決して目新しい役割ではないが、4日の練習では、投手陣の輪に入って、イチローは雑談していた。それは今まで見なかった光景だけに、今後、さらにそうしたシーンを見るようになるのかもしれない。
ところで――。
冒頭の会見にイチローは、スーツではなく、練習着でもなく、ユニホーム姿で臨んだ。
そこにも実は、彼なりの決意がにじんでいたのかもしれない。
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