イチローが選手登録を外れてから1カ月 来季を視野に、変わらず妥協なく
選手登録を外れても変わらぬ動きを見せているイチロー 【Getty Images】
イチローの打撃練習が始まると、最前列に身を乗り出す。おばあちゃんが戦前に広島からハワイに移住してきたという、日本の血を受け継ぐ彼は言った。
「これを待ってたんだ」
イチローの打撃練習を?
「そう。ずっと彼の打撃練習を見たかったんだ」
決してこの日が、初めてというわけではなかった。
「初めてイチローの打撃練習を見たのは12年ぐらい前かな。11歳のとき、(野球殿堂がある)クーパーズタウンで行われた試合に出る機会があったんだ。ヤンキー・スタジアムに寄ったら、相手がマリナーズだった。そのとき、イチローの打撃練習を見た」
どうだった、そのときは?
「ほとんどがオーバーフェンスだった(笑)」
それはおそらく、いまも変わらない。
先日、打撃練習とはいえ、6本連続でスタンドに運び、周りにいたチームメートがはやし立てた。「やるなぁ、会長付特別補佐!」とでも言わんばかりに。
球拾いを兼ねた守備練習でも、イチローは魅せる。客が入り始めると、背面キャッチで沸かせ、先日は、ライトスタンドに入りそうな打球をジャンプしてもぎ取った。
選手登録を外れた5月3日の会見でイチローは、「(実際の)選手より、いい動きするなよとか、そういうのは出るかもしれない。それはちょっと心配ですけど」と話したが、実際、運動量でも他を圧倒している。
ずっと練習を見ていたカイナー-ファレファから、「今季は復帰できないのか?」と聞かれたが、そんな見方が出るのも当然だろう。
しかも、枠が空いていたのである。
登録を外れたあと、カノとゴードンが離脱
そこでマリナーズは、マーリンズ時代にセカンドを守っていたディー・ゴードンをコンバート。センターには控え外野手だったギレルモ・エレディアを起用する方針を固めた。
伴って、第4の外野手が不在に。
その時点では、昨年9月、タイガース時代に1試合で全ポジションを守ったスーパーユーティリティのアンドルー・ロマインを外野の控えとしたが、本来は内野手。22日、ゴードンが右足の親指を骨折して故障者リストに入ると、ロマインを内野の控えに回し、マイナーから外野手のジョン・アンドレオリを昇格させた。
もしこのとき、イチローがいたら?
イチローがロースターを外れて間もなく、5人の外野手がいた4月終わりとは状況が一変した。
その後マリナーズは、レイズからデナード・スパンをトレードで獲得したが、彼の来季の契約(1200万ドル/約13億円)を破棄する場合(その方向)、400万ドル(約4.4億円)の違約金の支払が生じる。今季の正確な負担分は明らかではないが、合わせれば1000万ドル(約11億円)近い。その支払いは、仮にイチローを残していれば必要のなかったものだ。
このトレードの本命はクローザーもできるアレックス・コロメであり、半ば不良債権を抱き合わせで押し付けられた形だが、高くついた。もちろん、出場停止期間中はカノに給料を支払う必要はないので、その分で補填できるが――。