アジア杯準優勝の厳しい現実 “日本らしさ”の追求は3年後に吉と出るか

宇都宮徹壱

南野のゴールで一矢報いるも……

後半24分には南野のゴールで一矢報いたが、これが精一杯だった 【写真:ロイター/アフロ】

 前半27分、アリからのバックパスを受けたアクラム・アフィフが、日本のプレスを引きつけながらラストパス。空いたスペースで受けたハティムが、吉田の眼の前で左足を振り抜いて追加点を挙げる。さらに34分には、右サイドからのクロスにハサン・アルハイドスが飛び込んでポスト外側を直撃するなど、カタールが完全にゲームの主導権を掌握。対する日本は、何とか大迫にボールを集めようとするが、カタールの5バックが中央をしっかり固めて決定的な仕事をさせない。結局、前半の日本はゴールどころか一度も決定機を作れず、2点ビハインドのままハーフタイムを迎えた。

 確かに前半12分の失点は、いささかアンラッキーなものであった。しかしそれ以上に気になったのが、日本の試合の入り方である。とりわけ攻撃面において、大迫にボールがまったく収まらなかったのはなぜか。大迫は試合後、「相手が4バックと5バック、どちらで来るか分からない状況の中で後手を踏んでしまった」と語っている。また森保監督も、相手が5バックで来る可能性も想定していたものの、「試合が始まってからミスマッチが起こる中、そこの噛み合わせがうまくいかない中で序盤に失点してしまった」と、前半の段階で修正が利かなかったことを認めた。

 後半のカタールは、引き気味の状態からカウンター狙いの姿勢に入ったため、次第に日本は反攻の体勢を整えていく。後半17分には、原口に代えて武藤嘉紀を投入。そして24分には、ようやくビッグチャンスが訪れる。右サイドの酒井のバックパスを受けた塩谷が、相手DFを背負った大迫に縦パスを入れ、ワンタッチで落としたところに南野が侵入。すぐさまカタールGKサード・アルシーブが詰めるも、一瞬早く南野がボールを浮かして見事にゴールに流し込む。609分間にわたって守られてきた、カタールの無失点記録が途切れた瞬間。しかし日本の枠内シュートは、このゴールを含めてたった2本であった。

 その後、同点ゴールを求めてさらに攻勢を強める日本であったが、再びカタールの分厚い守りに阻まれてしまう。そうこうするうちに後半36分、セットプレーからの守備の際、カタールの選手たちが吉田のハンドをアピール。VAR判定の結果、PKが認められるとアクラム・アフィフがこれを冷静に決めて、カタールが大きな3点目を挙げる。日本ベンチは直後に伊東純也、さらに後半44分に乾貴士をピッチに送り込むも(交代は塩谷と南野)、2点差はあまりにも遠かった。5分間のアディショナルタイムを経て、ついにタイムアップ。カタールのアジアカップ初優勝が決まった。

カタールの躍進が日本に突きつけたもの

新たな歴史を作ったカタールは、アジアでも「ヨーロッパメソッド」の強化ができることを証明した 【写真:ロイター/アフロ】

 試合後の表彰式、準優勝に終わった日本にはフェアプレー賞が送られる。チームを代表して表彰台に立つ、吉田の表情は苦渋の色に満ちていた。確かに、3失点全てに絡んでしまった屈辱もあるだろう。あるいは「アジアのフットボールを世界に示したい」と前日会見で語っていたことが、カタールの強さを引き出す形で実現するという皮肉に、忸怩(じくじ)たる思いを抱いていたのかもしれない。そして5回目の優勝を目指した日本は、未体験ゾーンである7試合目の壁を突破することができず、アジアカップのファイナルで初めて敗れるという悲哀を味わうこととなった。

 さて、9カ国目のアジアチャンピオンとなったカタール。チームを率いるフェリックス・サンチェス監督は「われわれは歴史を作った。この結果は、われわれが成長するためのステップのひとつであり、2022年に向けていい準備をしなければならない」と語っている。今大会のカタールについては、さまざまな場面で彼らの強さを見せつけられることになった。とりわけ私が感服したのは、これまで最高成績がベスト8の経験しかなかった彼らが、7試合という長丁場をコンスタントに勝ち抜き、最後の決勝も余力をもって勝ちきったことである。

 もっとも、長期的な強化方針で今大会に臨んだカタールに対し、日本は新体制の立ち上げから半年ほどしかたっていない。それでも決勝進出を果たしたことについては、一定の評価をすべきであろう。試合後の会見で、森保監督は「アジアカップという厳しく難しいゲームを7試合できて、1試合ごとにいろいろな戦い方をしながら、チームの力としてステップアップできたと思います」と語っている。「アジア王者奪還」という目標は掲げていたものの、このチームにまず課せられていたのは、若い選手に経験を積ませながら世代交代を促進させること。そのミッションについては、十分にクリアしたと言えるのではないか。

 ただし今回の敗戦が、いくつかの厳しい現実を日本に突きつけたという事実は心に留めておきたい。アジアの勢力図に、変化の兆しが見られること。育成のアドバンテージは、もはや日本の寡占ではないということ。そして時間とお金をかければ、中東の小国でもヨーロッパのメソッドによる強化が可能であること。いずれもカタールのアジア制覇から明らかになったことである。そんな中、日本が今後の強化の方針として打ち出したのが、「日本らしさ」を追求するジャパンズ・ウェイ。日本とカタール、それぞれベクトルがまったく異なる強化方針が、3年後のW杯でどのような結果をもたらしているのか。今から気になるところである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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