明暗を分けた日本とカタールの前日会見
日々是亜洲杯2019(1月31日)

会見場の記者を感動させた吉田のコメント

決勝のキックオフ24時間前のシェイク・ザイード・スタジアム。晴れの日を前に不穏な空気が
決勝のキックオフ24時間前のシェイク・ザイード・スタジアム。晴れの日を前に不穏な空気が【宇都宮徹壱】

 アジアカップ27日目。早いもので今大会も明日(2月1日)の決勝を残すのみである。この日は会場となるシェイク・ザイード・スタジアムにて、日本代表とカタール代表の前日会見が行われた。最初に会見を行ったのは日本で、11時35分(現地時間、以下同)より森保一監督とキャプテンの吉田麻也が登壇。前日会見では監督と選手がセットでメディア対応するが、直後にトレーニングがある場合、先に選手が質問に答えてから退席するのが通例となっている。しかしこの日の練習は夕方に設定されていたため、吉田は最後まで会見に同席することとなった。


 森保監督の会見は、いつもフレーズが決まっている。いわく「厳しい試合になると思っています」。いわく「最善の準備をしていきたいと思います」。いわく「選手には持てる力をすべて出して戦ってもらいたいと思います」。もちろん、語彙(ごい)が少ないわけではない。決して本心を悟らせまいとする防御本能が、こうした定形のフレーズを頻出させているのであろう。だがこの日の会見は、最後に吉田が素晴らしいコメントで締めくくってくれた。「カタールとUAEの準決勝で、カタールを邪魔する行為が見られた。そのようなことをなくすにはどうすればいいと思うか?」という質問に、彼はこう答えている。


「まずAFC(アジアサッカー連盟)がペナルティーなりサスペンドなりで、コントロールすべきことだと思います。もしもこの大会で僕らが愚かしいことをしたら、メディアを通じて世界中に知れ渡ることになると思います。大事なのは、アジアのフットボールを発信していくこと。明日の決勝はアジアのすべての国々にとって、アジアの良いフットボールを発信する重要な試合になると思います。僕たちは明日、カタールにフェアプレーで挑みます。両チームが100パーセントで素晴らしいゲームをすることで、アジアのフットボールというものを、日本だけでなく世界に向けて発信したいと思います」


 吉田が英語で語り終えると、会見場は記者たちの拍手で包まれた。試合前日の会見で、こうした拍手が起こること自体、非常に稀(まれ)なことである。実のところ準決勝の2試合では、いずれもフェアプレーとは言い難い光景が繰り広げられた。イラン対日本の試合では、終了間際にイラン側による挑発行為をきっかけにつかみ合いが起こっている。カタール対UAEの試合でも、地元ファンがピッチに物を投げ込んだり、不必要なラフプレーでUAEの選手が退場になったり、こちらも散々であった。こうした状況に改善を促す吉田のコメントは、今大会に参加したすべての出場国に贈りたいくらい素晴らしいものとなった。

泥仕合の様相を呈してきたカタールとUAE

ピッチ上では決勝戦終了後のリハーサルが行われていた。果たして、トロフィーを掲げるのは?
ピッチ上では決勝戦終了後のリハーサルが行われていた。果たして、トロフィーを掲げるのは?【宇都宮徹壱】

 もっとも、イラン対日本の一件が偶発的なものであったのに対し、カタール対UAEの一件には政治的なキナ臭さが感じられたことは留意すべきだ。2017年6月、UAEを含む7カ国はカタールとの国交を断絶。その大きな理由は「テロ組織への支援やイランとの親密な関係」というものである(他にもさまざまな背景があるが、長くなるのでここでは触れない)。これによりカタールからUAEへの入国は原則禁止となり、カタール代表は今大会を孤立無援の状態で戦うこととなった。UAEとの準決勝が、完全アウェー状態の中で行われたことは、先のコラムで言及したとおりである。


 こうした逆境を乗り越え、カタールはUAEに4−0と圧勝して初の決勝進出を果たしたわけだが、両国の遺恨が終わったわけではなかった。12時20分から始まった、カタール代表フェリックス・サンチェス監督の会見でのこと。主力選手であるアルモエズ・アリとバサム・アルラウィについて、「FIFA(国際サッカー連盟)の規定に違反しているのでは?」という質問が相次いだ。国籍変更による代表戦出場の条件に関して、FIFAは「18歳以降に国籍変更後の国で、最低5年の継続した居住歴を保つこと」と定めている。アリはスーダン出身の22歳、アルラウィはイラク出身の21歳。微妙に計算が合わない。


 こうした質問に対して、サンチェス監督は「われわれは明日の決勝にフォーカスするだけ」として、明確な回答を避けている。確かにカタールには、かつて日本でプレーしたエメルソンをはじめ、才能あるブラジル人選手を帰化させようとして、FIFAから却下された「前科」がある。その意味ではアリとアルラウィの件も、きちんと精査させるべき案件であることは言うまでもない。しかしながら、このタイミングでUAEがカタールの選手資格について疑義を唱えるのは、単なる腹いせとしか思えないのも事実。いずれにせよ、決勝前日の晴れがましさとは程遠い、実に後味の悪い会見となってしまった。


 現地の報道によれば、UAEのサッカー協会はAFCの懲戒委員会に、カタールの違反を証明する文書を提出する意向で、最悪「決勝戦が没収される可能性もあり得る」という。こうなると、もはや泥仕合としか言いようがない。夕刻が迫るシェイク・ザイード・スタジアムでは、決勝戦終了後のリハーサルが繰り返し行われていた。もしもAFCがファイナルを没収したら、それこそアジアのフットボールは世界の笑いものだ。カタールとの決勝に関して、正直なところオン・ザ・ピッチでの不安はあまり感じていない。とにかく、無事にキックオフを迎えられるかどうか。不安があるとしたら、その一点のみである。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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