明治を日本一に導いた分析と準備 「部員126名の努力が最高の形に」

斉藤健仁

決勝戦用のサインプレーが成功

豪快なランで何度もチャンスをつくったWTB高橋 【斉藤健仁】

 次に持ち味のアタックだ。天理大は準決勝で帝京大を1トライに抑えるなど9試合の平均失点が9.8とディフェンスも強固だった。そのため、前半、相手の前に出てくるディフェンスに対して、密集周辺でショートパスを使って前に出た。当然、分析した上でダブルタックルをされないことが狙いだった。それがはまり、前半7分のトライは、PR祝原涼介(4年)らが前に出たことで、外にスペースが生まれてWTB山崎洋之(3年)のトライにつながった。

 前半22分もラインアウトモールで一度押し込んだ後で、SH福田がボールを持ち出して、そこに内側1人、外側2人が走り込み、クロスでパスを受けたWTB高橋汰地(4年)がトライ。この「タンク・エックス」と名付けられたサインプレーは決勝のため3つほどに準備したプレーのうちの一つで、見事に大舞台で決めた。

プレッシャーをかけ続けたラインアウトで圧倒

攻撃、ラインアウトなどあらゆる局面で活躍したFL井上 【斉藤健仁】

 3つ目はラインアウトだ。明治は、後半16分、相手の反則を誘ったスクラムもあったが、試合を通してスクラムは劣勢だった。だた、それを感じさせず、流れを呼び込んだのはラインアウトだった。マイボールは6/6と100%で、相手ボールのラインアウトは、プレッシャーをかけ続けた。前半3分、ラインアウトからトライを与えたが、その後の天理に9本中4本しか成功させなかった。

「片倉康瑛はラインアウトのこだわりが強い選手。片倉がプレッシャーを与えて武器になった」と田中監督は2年生LOを称えた。「分析好き」と自負する片倉は、メンバー外の4年生らと天理の映像のすべてに目をやった。190センチと長身ながら、スピードに長けた片倉が真ん中に立ち、「ムーブ系が多い。僕には投げてこない」という想定のもと、相手のムーブにより、前か後ろに動いて味方選手を素早く、高く持ち上げてプレッシャーをかけた。

 後半22分、明治大FW陣が相手ゴール前で奮闘し、最後はHO武井日向(3年)が中央にトライを挙げたが、起点は、相手ラインアウトのミスを誘発したことだった。結局、モールからの失トライは1。No.8マキシへのロングスローのサインもあったが、試合を通して天理大のラインアウトを封じたことは大きかった。

「自分たちにフォーカスしたゲームを」

就任1年目で最高の結果を残した田中澄憲監督 【斉藤健仁】

 個人的に明治大は昨季の決勝のように、相手の攻撃時間を減らすためにポゼッション重視で戦うのではないかと思っていた。ただ田中監督は前日、「昨季の決勝は普通にやっていたら勝てない相手にとった戦術ですが、もうそういうレベルのチームではない。スペースがあるところにボールを持っていきますし、裏にスペースがあれば蹴る、(相手ディフェンスが)広がっていれば寄せる。春からやってきたこと、自分たちにフォーカスしたゲームをしたい」と自信をうかがわせていた。

 その言葉通りの試合を見せた。決勝ということでリスクを考えて、自陣22m内からランすることはなく、FB山沢京平(2年)のロングキック、中盤ではSH福田のハイパント、CTB森のキックでスペースを狙う。ディフェンス、ラインアウトでプレッシャーをかけていたこともあり、エリアマネジメントで優勢に立ってあまり22m内に入らせないことに成功した。

 相手の長所を消して自分たちの長所をどう出すか、といった点では明治大に大きく分があり、天理大は準決勝の帝京大戦でできたことが、決勝では相手のプレッシャーの前にできなかったと言えよう。天理大・小松節夫監督の「うちは帝京大戦が一番のゲームで、明治大は決勝が一番のゲームだったかもしれない」という言葉が的を射ている。

「明治のプライドを持って戦えたのが勝因」

大学選手権に入ってからもチームは進化を続けた 【斉藤健仁】

 ロッカールームから出てくるとき、ノンメンバーの4年生たちに送られて涙を見せていた福田主将は「1年間積み上げてきたことをぶつけて、日本一になれてうれしい。対抗戦は厳しかったですし、決勝に至るまでの道のりは決して楽ではなかった。明治のプライドを持って戦えたのが勝因です」と再び、感極まっていた。

 田中監督が昨季1年間で「本当に日本一を目指す集団になる」とマインドを変えて、今季はコーチ陣とともに緻密なラグビーを落とし込み、大学選手権になってから選手が監督らの期待に応えてさらなる進化を遂げた。

 胴上げされても「恥ずかしかった」と田中監督はあまり喜びをあらわにせず、「ここで終わりではない。来季は追われる立場になる」とすでに先を見据える。平成最後に強い明治大が戻ってきた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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