日本が向き合う「初戦」の難しさ 日々是亜洲杯2019(1月8日)
「まだまだ中澤選手に追いつけていない」
前日会見に臨む、森保一監督(左)と吉田麻也。引退を表明したレジェンドに関する質問があった 【宇都宮徹壱】
前日会見には、森保一監督に加えてキャプテンの吉田麻也も同席。冒頭、現役引退が発表されたばかりの元日本代表、中澤佑二と楢崎正剛についてコメントを求められた吉田は、やや神妙な面持ちでこう語った。
「楢崎選手に関しては、個人的にもずっと憧れてきて、背中を追い続けた選手です。中澤選手に関しても、(彼が)代表を去ってから同じ22番を引き継いで、ずっと背中を追いかけてきました。正直、見えない背中を追いかけている感覚でしたね。もちろん、試合数もゴール数も、まだまだ中澤選手に追いつけていないですが(苦笑)」
吉田が日本代表に定着したのは2011年のアジアカップ以降で、楢崎や中澤とは入れ替わるタイミングであった。それでも楢崎は名古屋グランパス時代の先輩であり、中澤についても(当人が言及するように)22番とディフェンスリーダーの役割を引き継いで今に至っている。その吉田も代表のキャプテンマークを託され、世代交代が進むチームのけん引役が求められる立場となった。それでも「まだまだ中澤選手に追いつけていない」という言葉から、謙遜(けんそん)めいたものは微塵も感じられない。
ところで「平成最後のオフ」は、何とレジェンドの現役引退が多かったことだろう。ワールドカップ(W杯)出場経験のある元日本代表に限っても、川口能活、小笠原満男、そして今度は中澤と楢崎。この4人が出場したアジアカップといえば、日本が3度目の優勝を果たした04年の中国大会が思い出される。もっとも当時のジーコ監督率いる日本代表は、スタメンとサブが固定化されており、小笠原と楢崎はずっとベンチスタート。それでも出場機会の垣根を超えて結束した、実に応援しがいのある日本代表であった。
アジアカップの初戦は日本の「鬼門」か?
日本の初戦が行われるアル・ナヒヤーン・スタジアム。「初戦の難しさ」を打破できるか 【宇都宮徹壱】
アジアカップの難しさについて「W杯と違って、アジアの中で勝たないといけないというプレッシャーがある」と語っていたのは吉田であった。実際、過去5大会の日本のアジアカップ初戦を振り返ると、00年大会(サウジアラビアに4−1)と15年大会(パレスチナに4−0)を除く3試合はいずれも接戦。しかも07年大会(対カタール)と11年大会(対ヨルダン)は、共に1−1のドローであった。アジアカップの初戦を「鬼門」と呼ぶのは、いささか大げさに過ぎるのかもしれない。が、情報が少ないトルクメニスタンが相手だけに、油断は禁物だ。
もっとも当の選手たちは、さほど過度のプレッシャーは感じていない様子。「期待に応えるプレッシャーも感じながら、いい緊張感を持っています」と語る堂安律は、「(初戦は)あらゆることが起こり得ると思いますが、すべて想定内と思える準備をしていきたいですね」。代表キャップ数が50目前ながら、これが初のアジアカップとなる酒井宏樹は「試合後に『初戦は難しい』というコメントは言いたくないので、いつもどおりの試合展開にできればと思います」。ミックスゾーンでの選手たちは、いずれも肩の力が抜けた状態でメディア対応をしていたので、少しばかり安心した。
一通りの取材を終えて、メディアセンターで他会場の試合を見ながら作業をする。現地時間17時30分キックオフのイラク対ベトナムは、ベトナムが勝ち越してイラクが追いつく展開が繰り返される。このまま2−2かと思ったら、土壇場でFKを決めたイラクが3−2と逆転に成功。イラクは07年大会の優勝国であり、ベスト8の常連だが、この試合に関してはベトナムのレベルの高さが際立っていた。少し目を離している間に、どんどん勢力地図が変化しているのが、アジアの面白さでもあり怖さでもある。
初戦を迎えるにあたり、日本は必要以上にナーバスになる必要はない。ただし情報が少ない相手だけに、不測の事態に対しての対応力は求められよう。いずれにせよ若き日本代表には、レジェンドたちの相次ぐ引退を惜しむファンに、新たな熱狂を与えるような戦いを期待したいところだ。
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