ACLを得た勝者と悔しさを得た敗者 天皇杯漫遊記2018 浦和対仙台

宇都宮徹壱

実は負傷者続出で必死だった浦和

天皇杯の決勝はやはり中立で行われるべき。次回大会は新国立で2020年元日に開催予定だ 【宇都宮徹壱】

「宇賀神選手のスーパーゴールで失点してしまい、(前半は)難しい展開になりました。その後はわれわれがボールを動かすことで、相手の(ペナルティー)ボックスに迫ることができました。しかし最後のひと押しのところで、今日はゴールに結びつけることができませんでした。結果がすべてなので、こういう結果に終わってしまったことに悔しさが残ります。準決勝を突破した喜びよりも数万倍悔しいですね」

 仙台の渡邉晋監督の試合後のコメントである。クラブにとっても、指揮官自身にとっても、初のファイナル。その舞台に立たなければ、絶対に得られない感情をサポーターと共有できたことが、チャレンジャーである仙台が手にした「収穫」となった。一方、鹿島の監督時代には5シーズンすべてでタイトルを獲得し、浦和でも新たなタイトルをもたらすこととなったオリヴェイラ監督。さぞやご満悦かと思ったら、意外な事実を口にした。

「今日はわれわれにとって特別なゲームとなった。実はけが人が6人もいたため、昨夜はよく眠れなかった。マウリシオはベンチ外となったが、武藤(雄樹)は直前まで出場できるかどうか判断に迷った。青木(拓矢)は鹿島戦でひじを脱臼して、プロテクターを付けながらプレーしていた。興梠(慎三)も本来ならばプレーできない状況だった。そんな制限がある中でも、彼らは規律を守り、犠牲心を持ちながら精度の高いプレーを見せてくれた」

 実のところ、浦和も(そして指揮官も)また必死だったのである。そこまで追い詰められながらも、絶対に獲得しなければならなかった天皇杯。それは言うまでもなく、来季のACL出場権を獲得するためである。「浦和はACLを2度制している。(来季)出場できないことだけは避けたかった」とオリヴェイラ監督。圧倒的なホームの利を得ながらも、浦和は必死で戦い、そして渇望していたタイトルを手にすることができた。終わってみれば、スコア以上に見応えのある試合であったと言えよう。

 とはいえ、やはり天皇杯の決勝は、中立の会場で元日に行われるべきだ(少なくとも私自身はそう考えている)。幸い次回大会の決勝は、新国立競技場のこけら落としとして開催されることが決まっている。ここ5大会、日産スタジアム、味の素スタジアム、吹田スタジアム、そして埼スタで2回と転戦してきた天皇杯のファイナル。それが次の99回大会で、ようやく「聖地」に帰還できることとなった。そして次回大会は、AFCやFIFAの大会に遠慮する必要もない。JFAの名を冠した由緒あるカップ戦の決勝が、りんとした元日の空の下、新国立で開催される日が今から待ち遠しい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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