主力と「勇敢な若手」で勝利した浦和 天皇杯漫遊記2018 浦和対東京V

宇都宮徹壱

夜の天皇杯は終電との戦い

天皇杯でしか対戦することがなくなった浦和と東京V。7年前の対戦では浦和が2−1で勝利している 【宇都宮徹壱】

 8月22日、天皇杯のラウンド16の8試合のうち6試合と3回戦のサンフレッチェ広島対名古屋グランパスが各地で行われた。もっとも2週間くらい前まで、私はこの日に天皇杯の試合があることをすっかり失念していたのである。5月26日と27日に行われた1回戦は、沖縄でFC琉球対FC今治のゲームを取材したものの、2回戦の6月6日はワールドカップ(W杯)直前、3回戦の7月11日はW杯期間中。この間、ずっと取材で日本を離れていたため、天皇杯のことはほとんどキャッチアップできずにいた。気がつけば大会はラウンド16に進み、すでに都道府県代表はすべて姿を消している。そんな中、今回はどのカードを取材すべきか。

 やはり普段のリーグ戦では顔を合わせることのないカード(つまりJ1クラブ対J2クラブ)が望ましい。となると、モンテディオ山形対FC東京(NDスタジアム山形)、セレッソ大阪対ヴァンフォーレ甲府(山梨中銀スタジアム)、そして浦和レッズ対東京ヴェルディ(熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)の3択ということになる。当初は、前回大会のチャンピオンとして今大会に臨む、C大阪の試合を取材したいと考えていたのだが、この日はどうしても東京に戻っていなければならない。キックオフは19時で、甲府駅からの終電は22時7分。90分で決着がつかなかったら、終電を逃す可能性が高い(実際、この試合は延長戦までもつれ込んだ)。

 結局、終電が22時46分の熊谷での試合を選ぶことにした。とはいえ熊谷もまた、アクセス面で観戦者にやさしい会場とは言い難い。グーグルマップによれば、駅から「バスで10分」とあるが、試合がある日はその3倍はかかると見たほうが賢明だろう。しかも試合後は、タクシーもなかなか捕まらない。これまで毎年のように天皇杯の会場に選ばれている熊谷だが、臨時バスのオペレーションと会場周辺の交通渋滞はしばしば課題となっている。熊谷といえば、来年開催されるラグビーW杯の会場のひとつ。慢性的な輸送の問題が、本番までにきちんと解決されているか、いささか気になるところだ。

 あらためて、浦和対東京Vというカードについて考えてみたい。今でこそカテゴリーは異なるものの、共に栄えあるオリジナル10のひとつ。しかし前者が着実にビッグクラブへの道を邁進(まいしん)する中、後者は2度目の降格となる09年以降はJ2暮らしが続いている。ゆえに、ここ10年での両者の対戦は天皇杯に限られていた。最後にピッチ上で激突したのは、7年前の天皇杯3回戦(2011年11月16日)。結果は2−1で浦和の勝利であった。ちなみに東京Vが天皇杯で3試合連続で勝利したのは、実は優勝した04年大会が最後。もしも浦和に勝利できれば、単なる番狂わせ以上の意味を持つこととなる。

主力で臨んだ浦和とメンバーを入れ替えた東京V

後半19分にファブリシオ(右)が決勝ゴールを挙げ、浦和が準々決勝に進出 【写真は共同】

 キックオフ1時間前に試合会場に到着。さっそくメンバー表を確認する。ホームの浦和は3日前のJ1第23節・清水エスパルス戦から、スタメンを3人入れ替えてきた。といっても、この日キャプテンマークを巻いた柏木陽介をはじめ、森脇良太、宇賀神友弥が起用された。ただし槙野智章は「足首が腫れていたため」(オズワルド・オリヴェイラ監督)ベンチ外。槙野の穴を埋める形で、阿部勇樹が3バックの一角に入った。対する東京Vは、4日前のJ2第29節・大分トリニータ戦から何とスタメン全員を入れ替えてきた。

 ゲーム序盤、浦和はボールを支配し続けるものの、あまり攻撃に迫力が感じられなかった。13分、武藤雄樹が左サイドからクロスを送り、ファブリシオが頭で合わせるものの、枠に飛ばないばかりか威力もなし。22分には興梠慎三からパスを受けた柏木が左足でゴールを狙うも、GK柴崎貴広のセーブに阻まれる。そうこうするうちに、主導権は東京Vに移っていく。24分、井上潮音からのラストパスを左サイドで受けた、李栄直のシュートは右のポストを直撃。34分には、左サイドを駆け上がった香川勇気の低いクロスに林陵平が合わせるが、これも枠を捉えるには至らなかった。主力温存の東京Vが大健闘を見せて、前半は0−0で終了。

 エンドが替わった後半も、しばらくは東京Vの時間帯が続く。ただしハーフタイムで、オリヴェイラ監督はある修正を施している。いわく「前半は特に左サイドが空いてしまい、相手にチャンスを作らせてしまった。そこで運動量がある(右シャドーの)武藤を左に、ファブリシオを右に入れ替えた」。これでようやく、守備面で落ち着くかと思われた矢先の後半11分、浦和にアクシデント。右サイドで上下運動を繰り返していた森脇が、負傷のためベンチに下がる。代わって投入されたのは、ユース上がりの19歳、橋岡大樹。試合が動いたのは、その8分後であった。

 後半19分、岩波拓也が自陣ペナルティーエリア付近からロビングでパスを送り、これを前線で受けた興梠がヘッドで中央へ。最後はファブリシオが右足ダイレクトで合わせてネットを揺さぶり、ついに浦和が先制ゴールを挙げた。追いかける立場になった東京Vは、22分(菅嶋弘希)と26分(ドウグラス・ヴィエイラ)に相次いで攻撃の選手をピッチに送り込むが、主導権を取り戻すには至らず。逆に後半28分に途中出場した、やはり浦和ユース出身の18歳、荻原拓也の縦へのスピードに手を焼くこととなる。結局、そのままスコアは動かず。1−0で競り勝った浦和が、3大会ぶりのベスト8進出を果たした。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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