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野村克也からの手紙

まえがき 拝啓、皆様──
『野村克也からの手紙』
【写真提供:ベースボール・マガジン社】

「監督、手紙を書いてみませんか?」


『週刊ベースボール』で連載中の「野村克也の本格野球論 本物の野球はどこへ行った!」の書籍化について、打ち合わせをしていたときだ。書籍編集者が、突然そんなことを言い出した。


 連載200回を超える、このコラム。すでに第一弾の書籍は『それでもプロか! ノムラの本物論』というタイトルで、2014年に刊行されている。てっきり、その第二弾だとばかり思い、いささか油断(?)していた。


 手紙は正直言って、私の苦手分野である。まず、字がヘタだ。次に、何を書けばいいのかわからない。ボヤキは得意だが、手紙に書くようなものではない。


 振り返れば、初めてきちんとした手紙を書いたのは、中学のときだった。一級下の女の子に、ラブレターをしたためた。内容は記憶に定かではないが、学校の話──授業の話とか、先生の悪口とか、そんなことだったと思う。


 ちなみに余談だが、私の初恋は、その中学時代ではなく、小学3年生のとき。女優の山本富士子さんに似た、キレイな先生だった。まさしく高嶺の花。なぜ先生のことが好きだと気づいたかといえば、先生が結婚したとき、ものすごく悲しかったからだ。しかし、当時は手紙を書こうなんて思いもしなかった。


 最後に手紙を書いた記憶は、プロ入り間もない二軍時代。あのころは給料も安く、どこにも遊びに行けなかった。寮の部屋に一人でいるにつけ、高校時代の友だちが皆どうしているか気になって、手紙を書いた。いわば、近況報告みたいなものだった。


 以降は、まともに手紙を書いた記憶がない。礼状や年賀状は皆、妻が代筆してくれたと思う。


 そんな私に、二十一通もの手紙を書けという。なぜ『21』なのかというと、私が日ごろ、「野球は3の係数でできている」と言っていたからだ。それなら9でも12でもいいではないか。一通でも、超難題だというのに、二十一通とは。


「目の前のお相手に、お話しになるつもりで書いていただければ……」と、編集者。


 目の前にいると思うと、余計話すことがなくなるわ。そうは思ったが、やるしかない。人間、死ぬまで勉強と、日ごろから言い続けているのだから。手紙だからこそ、より伝わることがあるかもしれない。あればと思う。長く会っていない人にも、あの世へも贈ってみよう。昔話に、今言いたいこと、言い残しておきたいこと。思いつくまま、書いてみよう。


 拝啓、皆様──。


2018年5月20日


 野村克也


※本記事は書籍『野村克也からの手紙 野球と人生がわかる二十一通』(ベースボール・マガジン社)からの転載です。掲載内容は発行日(2018年6月20日)当時のものです。

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