「融合」と「化学変化」の先にアジアカップのアウトラインが見えた

宇都宮徹壱

南野、大迫、堂安、そして南野!

南野(写真左)、の3試合連続弾などでウルグアイから22年ぶりの勝利を収めた 【写真:高須力】

 あのウルグアイを相手に、どれだけ我慢を強いられるのだろうか。そんな覚悟をしながら迎えたキックオフ。しかし、先制したのは日本だった。前半10分、前線にポジションをとっていた南野に中島からのパスが通る。南野は瞬時に反転して背後のゴディンをかわし、そのまま右に流れて3人のDFを引きつけながら右足を一閃。ボールはGKフェルナンド・ムスレラの足に当たってネットに吸い込まれていった。南野はこれで3試合連続ゴール。フィニッシュの精度もさることながら、ボールを受けた瞬間の巧みな動き出しは、すでに名人芸の域に達しつつある。

 もちろん、ウルグアイも黙ってはいない。17分には右CKからゴディンが高い打点でのヘディングシュートを放つも、これは東口がファインセーブ。28分には、右サイドからのFKのチャンスにセバスティアン・コアテスが頭で落とし、中央でフリーだったガストン・ペレイロが右足で押し込んでついに同点とする。しかし日本は、森保体制初失点にひるむことはなかった。36分、中島が放ったミドルシュートは、いったんはムスレラのセーブに阻まれるも、右に流れた大迫がGKの股間を抜くシュートを決める。日本が1点リードという、予想外の展開で前半は終了した。

 後半の序盤は、日本に我慢の時間帯が続く。ウルグアイの猛攻を何とかしのいだものの、後半12分に三浦が東口に不用意に出したバックパスをカバーニに奪われ、あっさりゴールを割られてしまう(この直前、倒れてPKをアピールしていたカバーニのことを三浦は忘れていたようだ)。これで2−2の同点となったが、日本はすぐさま復元力を発揮。失点から2分後の後半14分、堂安がパスカットから酒井とのワンツーで抜け出し、さらに見事なボールさばきでシュートコースを作ると、そのまま左足でネットを揺らす。堂安の代表初ゴールで、日本は再びウルグアイを突き放すことに成功した。

 さらに後半21分にも、堂安がペナルティーエリア手前から得意の左足でシュート。これをムスレラがはじくと、バウンドしたボールに南野が右足で反応して4点目を挙げる。格上のウルグアイに対して、これで2点リード。しかし、まだ時間は十分にある。2点リードをひっくり返された、ベルギー戦の教訓は生かされるのだろうか。後半30分、ウルグアイは途中出場のホナタン・ロドリゲスが決めて1点差。しかし、この日の日本は最後まで落ち着いていた。終盤になると、セーフティーなボール回しで試合を殺し、そしてタイムアップ。日本は南米の強豪相手に、4−3という派手なスコアで競り勝つことに成功した。

日本の選手交代が少なかった理由

反省材料も多いゲームであったが、見る者を楽しませる内容で「融合」と「化学変化」の一端が垣間見えた 【写真:高須力】

 FIFAランキング54位の日本が、同5位のウルグアイに4−3で勝利。しかも対ウルグアイ戦の勝利は、実に22年ぶりのことである。ちなみにこの時のスコアは5−3で、三浦知良が2ゴールを挙げている。「ウルグアイから2ゴールを記録した日本人選手」として、南野はカズと並ぶこととなった。もちろんいくら格上とはいえ、相手は地球の反対側からやってきた完全アウェーの状態。しかもしょせんは親善試合である。そして何より、この試合の日本はミスも失点も多すぎた。何かと反省材料も多いゲームであったが、それでも見る者を楽しませる内容であったという点については、異論はないだろう。

 ピッチ上の選手たちも同様であった。ゲーム終盤に途中出場した原口元気が「今日に関しては、間違いなく全員が素晴らしかった。あれだけ生き生きしているプレーはホント久しぶりに見たし、僕もすごい楽しみながらも刺激をもらった」と語れば、左サイドから再三チャンスを演出した長友も「もしも僕が代表に選ばれなかったとしても、絶対に見に行きたいくらい生き生きした面白いサッカーをしている」と言い切る。若手の台頭にいささかの脅威を覚えつつ、それでも“欧州ロシア組”の選手たちが「楽しい」とか「面白い」といった言葉を口にしているところに、森保監督が目指していた「融合」と「化学変化」の発露を見る思いがする。

 この試合で興味を引いたのが、日本のベンチワークの少なさである。ウルグアイが交代枠の6枚をすべて使ったのに対し、日本は後半29分の柴崎OUT/青山敏弘IN、そして42分の中島OUT/原口INの2枚のみ。柴崎はプレーに精彩を欠いたため(所属クラブで出場機会が得られていないことが要因と思われる)、中島は結果を出しての「お役御免」であろう。そうしてみると森保監督の中では、すでに現時点でのコアメンバーは固まりつつあるのではないか。いみじくもタバレス監督は、日本とウルグアイの違いについて「明確なチームの姿ができているかどうかだと思う」と語っている。

 こんなに早い段階でチームのコアメンバーを決めてよいのか、という懸念はあるかもしれない。とはいえ、来年1月にUAEで開催されるアジアカップまでは3カ月しかない。ゆえに今回の10月シリーズは、アジアカップに向けたコアメンバーを見定めることが目的だったと考えるのが自然だ。そして来月の2試合は、そのブラッシュアップに充てられるのではないか。いずれにせよ、今回のウルグアイ戦でわれわれは、新しい日本代表のアウトラインを確認することができた。11月のシリーズでは、「MINAMINO」「NAKAJIMA」「DOAN」のネームが入ったレプリカを試合会場で見ることになるだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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