「融合」と「化学変化」の先にアジアカップのアウトラインが見えた

宇都宮徹壱

FIFAランキング5位の強豪との対戦

FIFAランキング5位の強豪・ウルグアイとの一戦に臨んだ日本代表 【写真:高須力】

「ウルグアイ代表にとって、韓国と日本との2試合は非常に重要な意味を持っている。両国とも、アジアで最も強いチームであり、ワールドカップ(W杯)にも連続出場しているからだ。われわれは、ブラジルで来年開催されるコパ・アメリカ、そして2022年のW杯カタール大会を目指している。今回のアジア遠征の目的は、若い選手たちを試すこと。成長著しい若い選手たちが、ベテラン選手たちと融合することで、チームのために貢献してくれることを期待している」

 ウルグアイ戦の前日。日本代表のミックスゾーン取材が終わり、会見場をのぞいてみたらウルグアイ代表の会見はまだ続いていた。森保一監督になって以降、なぜか日本のミックスゾーン対応と対戦相手の前日会見がかぶることが多い。しかし幸いにも、オスカル・タバレス監督がひとつひとつの質問に丁寧に答えてくれていたので、会見の最後の部分を聞くことができた。ウルグアイのカリスマ指導者も、御年71歳。今は歩行に杖が欠かせないようだが、それでも次代のタレントについて語るときは、生き生きとした表情を見せる。

 タバレス監督は、これまで自国の代表を4回、W杯に導いている。最初が1990年のイタリア大会で、この時はベスト16だった。その後は南米や欧州のクラブを率いたのち、06年に再びウルグアイ代表に復帰。この年のW杯出場を逃していたため、まさに切り札として「ラ・セレステ」(ウルグアイ代表の愛称)を再び率いることとなった。それまで古豪扱いだったウルグアイは、以後の3大会に連続出場。10年南アフリカ大会では4位、14年ブラジル大会ではベスト16、18年ロシア大会ではベスト8という結果を残している。最近のウルグアイの躍進は、この名伯楽を抜きには語れない。

 日本とウルグアイとの対戦は過去に6回、いずれも日本での親善試合である。結果は日本の1勝1分け4敗。唯一の勝利は22年前の96年で、タバレス監督が就任して以降は3連敗している。前日のミックスゾーンで吉田麻也は「多くの選手がこういうランクの相手と対戦するのは慣れていないので、難しくなるだろうし、耐える時間も長くなると思う」と語っていた。おそらく新キャプテンの脳裏には、純然たる挑戦者として臨んだ先のW杯のイメージがあったはずだ。ロシアでの記憶が鮮明なうちに、FIFA(国際サッカー連盟)ランキング5位の強豪と手合わせする。実に理にかなったマッチメークと言えよう。

「融合」と「化学変化」を見極める場

先日のパナマ戦とあわせ、招集したフィールドプレーヤー全員に出場機会が与えられた 【写真:高須力】

 曇天の空の下、埼玉スタジアム2002の最寄り駅である浦和美園に到着。Jリーグの取材でよく訪れる埼スタだが、代表戦での取材はずいぶん久しぶりのような気がする。それもそのはず、昨年の8月31日のW杯アジア最終予選、対オーストラリア戦以来である。この日、当時のヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表は、ロシア大会の出場権を獲得。しかもアジアの難敵を、会心の試合内容で破っての快挙であった。あれから日本代表をめぐる状況は激変したが、会場周辺は今でも「HONDA」や「HASEBE」のネームが入ったレプリカをよく見かける。何とも不思議な感慨に浸りながら試合会場に向かった。

 さて、今回のウルグアイ戦のスターティングイレブンについて、森保監督は「パナマ戦から大幅に変えて臨みたい」と前日会見で明言している。4日前のパナマ戦では、コスタリカ戦で注目を集めた中島翔哉と堂安律、そして“欧州ロシア組”の守備陣は、いずれも出番がほとんどなかった 。その一方で、追加招集の川又堅碁と北川航也にチャンスが与えられていたのは興味深い。とりわけ北川の起用方法を見ると、森保監督は「招集した選手はできるだけ使う」というのが基本姿勢のようだ。ならば、予想は立てやすい。

 果たして、この日の日本のスタメンは以下の通り。GK東口順昭。DFは右から、酒井宏樹、三浦弦太、吉田、長友佑都。中盤はボランチに柴崎岳と遠藤航、右に堂安、左に中島、トップ下に南野拓実。そしてワントップに大迫勇也。パナマ戦から南野と大迫以外の9人が入れ替わり、今回招集したフィールドプレーヤー全員に出場機会が与えられることとなった。そして当初予想した通り、このウルグアイ戦がチームの「融合」と「化学変化」を見極める場となったのである。

 対するウルグアイは、ルイス・スアレスが家庭の事情で招集を辞退したものの、キャプテンのディエゴ・ゴディンをはじめ、エディソン・カバーニ、マルティン・カセレス、ルーカス・トレイラといったおなじみの顔ぶれが並ぶ。ロシアでのW杯の日々はすっかり遠い記憶となったが、優勝国フランスと死闘を演じたウルグアイの面々と、こうして相対するのは実に感慨深い。ちなみに先の韓国との試合では、彼らは1−2で敗れている。いくら「若い選手たちを試すこと」が目的でも、アジアで連敗することを彼らは良しとしないだろう。日本の前に立ちはだかるのは、まさに「本気のウルグアイ」である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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